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[abys022.lzh] うはwwwおkwwっうぇ 2004/07/29(Thu)23:44 N9.lzh
 前のも同梱。改行もしました。

 ※1度、深淵スレにup。その後あぷろだに再up。
 ※スレ内でコメントがついてましたので、それも一緒に収録。(古城倉庫)


 131 :(○口○*)さん :04/07/29 14:46 ID:7RUWxLmx
  すごく長くなりそうなのを少しづつ投稿していい?(´・ω・`)
 
 
 132 :(○口○*)さん :04/07/29 14:54 ID:ouDfa/kv
              [トー〜ーーi;
             ||::     ...{;
     ┌─、     ||:.      .{;
     ||  `\.    ||__ . .::::::{;
 .    \、  `\... .|||φ|ー〜'
        \、  `\ ||゜‐゜ノ、 
         \、  /^}{⌒人
        |l_,/l.\、/ノ_,\、..::⌒ヽ、      神妙にいざ参れ。
       / , ヽ、_ム{l]___ハヽ.... ..:::ヾ、_   
       / ∧   /-イ 人..:::ゞ   ...,ゞ   
       `‐'  ヽノ|;;;;;;〈l〈;;;;;;〉 .... ..:::ヾ(
  ───━━{i~~|_:::::::>_>::ゝ..::..ヾ て
          〈.r、_ ̄ ~  ̄_ヾ、_...::::(
          〈〈 |l|~~ ̄~|l| ̄|l|ヾ⌒
           ヾ |l|    /_l  |l|
            /_l      /_l
 

 133 :SIDE:B 悪魔の苦悩(1/2) :04/07/29 20:39 ID:7RUWxLmx
 131です。多分ですが、長くなりますことをお詫びいたします(リアル時間もスレ消費も)
 
 ----

 「……はぁ」

 ひょこひょこ、と彼女が歩く先を跳ねていたミミックが戻ってくる。
 彼女の大仰な頭巾の内側を覗くように、足元から見上げてくる。

 宝箱の魔物を連れとして、
 グラストヘイム修道院を勝手知ったる足取りで歩む彼女は、
 人間にはダークイリュージョンとして知られる大悪魔だった。


 名前は…。

 「イリュー、ゲンキカ! イリュー、ゲンキカ!」
 …角度的には外套の内側から。

 相手が無機物とはいえ、さすがに年頃(?)の娘としては裾を抑えるわけだが、
 ミミックはイリューの娘らしい恥じらいを意に介さずに跳ね回る。

 「…うむ。わらわは元気じゃ」
 イリューがふっと笑みを浮かべると、ようやく安心したのか、
 ミミックは再びひょこひょこと彼女の先導をはじめた。

 「…時にミミックよ」
 「ン?」

 跳ねるのをやめて箱を半開きにしたまま、
 自分の言葉を待つミミックの見ようによっては可愛らしい姿を見て、

 イリューは自分の言い出し掛けたことも忘れてぷっと噴き出した。
 ミミックがはしゃぐ。


 「イリューワラエ! イリューワラウ、モエ! モエ!」

 自称『萌えの求道者』らしいレイドリック兄弟に仕込まれたその単語。

 ミミック的にはそれは“よいこと”を示すだけで
 なんら他意はないのだとわかってはいても、

 イリューとしては『萌え萌え』叫ばれるのは少し複雑である。

 いくら言い聞かせても治らないので、
 最近は彼女も諦め気味だが。

 「ふふ…。お主がおって、わらわも嬉しいぞ」
 彼女の悩みの幾分かは、確かにミミックの存在で軽減されている。

 彼女の悩みは…。
 
 

 父親の魔界の居室へイリューが訪れたのは、
 冒頭に彼女が憤懣やるかたない様子で修道院を闊歩していた時から
 半刻ほど前のことであった。

 この数日、魔界でも何故か人型をとっている父に合わせるように、
 イリューも己の衣装を魔族の物から人へと転じる。

 イリューの幻魔力も強いのだが、
 父のように己の姿だけではなく、室内装飾までをまるまる様変わりさせるほどの力は無く、
 見たことがないものを具現化させることもできない。

 アマツ式で統一された室内では明らかに浮き上がって見える
 イリューの藍色の高位聖職者装束を見て、ダークロードは鼻を一つ鳴らした。


 「父上、単刀直入に聞きたい。わらわは何故にこの世に生を受けたのじゃ?」
 魔王はもう一つ、鼻を鳴らす。

 「藪から棒に何かと思えば。未通娘らしい疑問じゃな。
  ……お前が生まれたのはな。我のコレで女のナニに…ぐはっ!」

 娘からダークロードへの返礼は、一瞬顔が歪むほどの一撃。
 並みの魔物では存在自体が危うくなる程の攻撃だが

 そこは流石に魔界の王、人型を崩しもせずに泰然たるものである。

 端正な顔をたらりと流れる鼻血さえなければ。


 「…わらわは真面目に聞いておるのじゃぞ」
 半ば泣きそうな表情で追撃のブロードソードを構えるイリューに、
 普段とは違う何かを感じたのか、魔界の王も居住まいを僅かに正した。

 さりげなく“こたつ”を間に挟む位置に移動しているのは、
 さすがに素直にもう一撃を貰うのは嫌だと言うことだろう。


 「……」
 半信半疑、といったイリューの見守る前で、彼女の父親は重々しくその口を開く。


 「…お前は、な。我がある女の…子壺に子種を…」
 そこまで言い掛けたところで、狭い部屋の空気が凍った。


 「言い方を小難しいものにすればよいと言うものではないわ!」
 「…うわやめろなにをdrftgyふじこlp;@」
 
 
 134 :SIDE:B 悪魔の苦悩(2/2) :04/07/29 20:39 ID:7RUWxLmx
 「もういい。父上に尋ねたわらわが愚かであった!」
 捨て台詞と共に部屋を飛び出すイリューの後姿を、黒く焦げた残骸が見送った。

 炭化死体にしか見えぬそれは、自分の後ろに巨大な緋色の影が立ったのへ、
 振り返りもせず片手を上げて挨拶を返し、ぱちんと指を鳴らす。

 室内の惨状も自らの衣装もその一瞬で元に復す
 と、ダークロードは何事も無かったかのように“ざぶとん”を敷いてあぐらをかいた。


 「…やれやれ。騒々しいことだな、ダークロード」
 「人の居室に勝手に上がりこんでたいした言い草ではないか。

 …ははぁ、その暇そうなそぶり。さてはあの女に振られたか?」
 軽いジャブのつもりだったのだが、バフォメットは目に見えて落ち込んだ。


 「あれは、今日は娘の元に遊びに行くのだそうだ」

 「…? お主も行けばよいではないか。
  いやまて、それ以前にあの女も汝も、素性を己が娘に明かしては居らぬのだろう? 
  会うと言っても何と名乗って…?」


 怪訝そうな顔で問いながら、
 自分の前の“ざぶとん”を指す魔界の僚友に感謝の会釈をすると、
 バフォメットも人型を取ってあぐらをかく。

 その衣装は元の毛並みの緋色とは似つかぬ黒衣だった。
 そのまま部屋の主に断りもせずに徳利を片手に手酌を始める。


 「母と娘ではなく女同士の買い物、とか言うておったわ。
  ……そこに男は不要だそうだ。それに…」

 バフォメットがわずかに口ごもり、何かをごまかすかのように酒杯を煽った。


 「何だ、お主らしくもない」
 「…そろそろ、あの娘の母御の死んだ日であろう」


 「そうか」

 緋色の魔王の不器用な気遣いに、怒りもせず、礼も言わず。
 闇の公子は飲み相手の空いた杯に酒を注いだ。

 魔族であっても、一人で死者を悼むのは辛いものだ。愛したものであれば、なおさら。


 「……バフォメット。お主は、ヒトの女と終焉を共にすべく、かの女を我等と同類に転じたが」
 「貴公の連れは…、アマツの流れの歌姫であったか」

 「我が魔族に転じて後もあの女は我を愛したが…人として生を全うした。
  誰が知ろうや? 人と魔と、そのいずれの生が辛いかを」

 娘に父と呼ばれ得ぬ者、そうでない者。
 愛する伴侶と共にあり続ける事を選んだ者、そうでない者。

 選んだ道筋こそ違え、この二人に共通することがある。


 「…ヒトとの間に生まれし子は、手間がかかるものだな、バフォメットよ」
 「それが故に愛しいのかもしれぬぞ、ダークロード」

 決して、子の前では口に出せぬ本音を呟くと、二人の黒衣の父親は杯を掲げた。
 二人ともが知る、古き時代に死したアマツの女に対して。


 「…汝の生まれし理由は…、愛ゆえに、だ。イリュー。我が娘よ」
 
 
 135 :131 :04/07/29 20:47 ID:7RUWxLmx
  はい、DL様がアマツ航路ができた途端に手をのばしちゃった理由とかを
 >>29様以降の流れで考えてみました。
 脳内こじつけすみません。黒髪のイリューたんが許せない人もゴメンナサイっ
 
 1000年も前にアマツがあったかっ? とか難しい事は考えない方向でおながいします。
 あと、表題とか裏の事情とか気づいた方はできればこっそりニヨニヨしていてください。

 あと、今回は内藤は多分出てきません。禁断症状で手が震えない限り
 
 
 136 :(○口○*)さん :04/07/29 20:47 ID:PSe+gEOl
  かき氷の人乙。
 個人的に彷徨う者が話に絡むと、ちょっち嬉しい。
 
 
 137 :(○口○*)さん :04/07/29 20:47 ID:anjUNyVU
  >>133
 キター!!

 すっかり駄目オヤジ化していたダークロードの本音が渋く切なくかっこいい!
 …実はイリューたんも薄々感じていながらも自信が持てず、ちゃんと言って欲しかったとか。

 うわ〜、電波受信してるのに書くだけの余力がない自分が恨めしい!
 
 
 139 :(○口○*)さん :04/07/29 22:23 ID:pjSWI9ll
  >>131氏 乙。だが長いネタの場合はアプロダ使う方がいいと思うぞ。
            л
      <||   / ̄ ∈
      /__ヽ   || ̄     その方がスレに優しいからな。
      | | ||  /    |⌒i  
    /|   |\     | |
    /    / ̄ ̄ ̄ ̄/| |
  __(__ニつ/ ライドワード/__| |____
      \/____/ (u ⊃






[abys022.lzh] うはwwwおkwwっうぇ 2004/07/29(Thu)23:44 N9.lzh
 前のも同梱。改行もしました。

SIDE:B 彼女の選択

 イリューが苛立ちも露わに修道院を闊歩する様を遠くから見て、
 古城の“赤の司祭”ことイビルドルイドは控えめな笑みを浮かべた。


 イリューの変化は、イビルドルイドにとって興味深い。

 魔族として生きた月日なれば彼女よりもはるかに長いはずの大悪魔が、
 時に生れ落ちたばかりの雛鳥のように頼りない様を見せるのは、
 彼女のような嗜好の持ち主にはとても好ましいものだった。


 「…とはいえ、あのイリュー殿に下手に近づくと、
 私も苛立ちの解消に使われてしまいますか」

 イリューがそうであるのと同じ程度の意味で“年頃の娘”である
 古城の騎士の事を思って、赤の司祭の笑みが深まる。

 イリューもかの御仁のように頭装備一つで宥められるような性格ならば御しやすいのだが…。


 「とはいえ、あの頑なさもイリュージョン卿の魅力ともいえますしね、
 そこが私は好きなのですよ、レイス殿」
 「………」

 死霊は言葉を発さずに、漂う。
 それでも何らかの意思疎通はできたらしく、“赤の司祭”は一つ頷いた。


 「麗しき薔薇は近くで、
 控えめな鈴蘭は、遠くで愛でるがよい…ですか。

 レイス殿は詩人でいらっしゃる」


 やはり無言で、白い骨の指を持ち上げると、レイスはしゃれた仕草で左右に振ってみせた。

 「ふふ…お褒めに預かり恐縮ですが、薔薇とは私には過ぎた形容ですね。
 それとも…私には棘があるとでも?」

 レイスは肩をすくめると、品の無い大声で哄笑した。



 「…ミミック、余り急がないでくれぬか……む?」
 はしゃぎすぎて先に進んでいくミミックに、
 イリューは苦情を一ついいかけて、口をつぐんだ。前にいるのは人間の集団だ。

 「また、戦わねばなるまいな」


 ため息を一つ。
 彼女が存在するのは修道院の守護のため、だとイリューは理解していた。

 だが、彼女は最近思うのである。この場所に護るほどの何があるのか、と。
 彼女の知人の持ち場たる騎士団は護るべき場だと思う。

 この古い城の一大拠点であるし、彼女をはじめ魔族が人間界に存在するための様々なもの…、


 レイド兄弟ならエルニウム、

 イリューや
 深淵の騎士たちといった実体を持つものには飲食のためのもろもろなどがそこにはあるのだから。


 しかし、
 もしもそうでなくとも、仲間と積み重なった思い出とは侵入者から護るに値するかもしれない。


 だが、この修道院は。

 「…この場には何も無い。ここにいるのは、ミミック、お主とわらわくらいだ」
 カタコンベから彼女について出てくるレイスや古城からふらりと出てくるイビルドルイド、
 それに彼女の呪術で操られるグール達もいてはくれるが、彼等は本来カタコンベや古城の住人だ。

 イリューのモノではない。
 イリューのためにある存在でもなく、逆もまた然り。

 修道院に真実属するのは、イリューのみなれば、
 彼女がこの場で戦うのは己のためだけということになる。


 長く、戦い続ける理由としてはそれはなんと薄弱なものか。


 「降りかかる火の粉を払い続けるのも、倦むものじゃ…」

 呟きながら、人間の方へ指を向けて高速で詠唱を行う。
 突然現れた魔法陣に算を乱して逃げようとするもの、彼女に向き直って構えるもの。
 いつもながらの、一日に数十回と繰り返される構図だ。

 適当に彼等をあしらい、魔力が尽きたら魔界に戻る。果てることのない戦いの日々、
 とは表現が好意的に過ぎるだろう。そこにあるのは、果てのない戦いの牢獄。


 「このような戦い、いつまで続けるべきなのじゃろう?」

 踏みとどまったのは細身の男の聖職者。
 自らの袖に縋る女魔法使いを突き飛ばすように振り払うと、イリューに攻撃法術を浴びせかけてくる。
 逃げ出す者達から彼女の注意をそらすかのように。



 「…聖職者よ。お主は護るべきもののために戦うのじゃな…? 羨むべきか、妬むべきか…」
 ふぅ、とため息をもう一つ。

 これも最近増えた癖だ。
 どうやら深淵の騎士内藤の魂をこの世に呼び返したときの魔術の反動で疲れやすくなっているのだろう。


 「…そうか、わらわの生命はかの者を生かすためには、役に立ったというわけか」
 気まぐれでうろついたカタコンベで見かけた、強い後悔の念の宿る墓。

 そこに宿る魂に触れたのも、
 その男を反魂法で深淵の騎士に受肉させたのも、イリューにとってはタダの気まぐれだった。

 しかし、それは修道院を護ることのように使命として定められた事ではなく、
 彼女が自らの意思で選んだこと。

 何かを成す事を選べる限り、そこには生きている意味がある。
 たとえその結果がどうであろうとも。


 悩んでいたこの数日で、初めて何かが腑に落ちたような気がしながら、
 イリューは常の仕事を果たすべく、侵入者に向き直る。少しだけ、その目に違う光を浮かべながら。

 「…勝てるとは思いませんが、しばしお相手いただきますよ!」
 「よかろう、人間…。汝の勇気に敬意を表そうぞ。これがわらわの選択じゃ」

 いいながら、炎の壁を聖職者の後ろに蒔き、隕石召喚の術式を練る。手にした剣は振るわない。

 それが、彼女の選択。

 聖職者の顔に浮かんだ驚きの表情は、イリューが喋ったことか、
 それとも、振るえば瞬時に聖職者を石榴に変えれるであろう剣を彼女が用いなかったことか。

 否、そのいずれでもなく。

 「…女の、声…!?」

 隕石を避けて炎の壁に飛び込み、つき抜けた聖職者の顔は煤と疑問符で化粧されていた。
 その背後に更にイリューは火の壁を生む。


 「敬意を表す。だが、加減はせぬ。わらわがここに在る意味が戦うことなれば!」

 「…感謝します。ですが、加減はできません。私を待つものがいる限りは!」

 聖職者の逃げ道を炎が遮り、降り注ぐ隕石が彼を撃つ。
 その合間を縫って聖なる光がイリューを灼く。

 戦いの輪舞を舞う彼等は、崩れた瓦礫に半ば埋もれた狭い道を抜け、
 修道院がかつてその名に相応しい様相だった頃の回廊に至った。

 その間に、戦いの趨勢は彼等の実力差に相応しい、あるべきところへと落ち着いていく。


 「…ここまで…持てば。あいつは…逃げ切れましたかね…」
 荒い息で言う聖職者に、イリューの無慈悲な魔力が飛んだ。
 もはや避ける体力も無かった男は、まともにそれを受けてよろめく。

 「汝等は侵入者じゃ。なれば排除されるは道理…恨むななどと戯けた事は言わぬ」
 「…わかっていますよ。ですが、恨む代りに私の感謝を…悪魔殿。
 貴方は私の生命に意味を与えてくれた」


 死を前にして端然と言う聖職者の男。イリューは、そうあることができるだろうか。
 今滅んだとして、彼女の生命に意味はあるのだろうか。自問する一瞬が、男を救った。

 イリューの視界に映ったのは駆ける騎士と、それから…。

 「シェール! 無事ね?」
 聖職者が命を賭けて逃がしたあの女魔法使いが、イリューに幼稚な魔術を打ち込む。

 その声が、イリューの魔術の発動をずらした。魔力で召喚された隕石が男をかすめて落ちる。

 「ナッツ!? 何故戻ったんで… うっ!」
 はね飛んで崩折れた聖職者にかけよる女魔法使い。
 だが、イリューは見ずとも男が生きていることを知っている。手加減をしたわけではない。

 ただ…

 「…それがわらわの選択じゃ。帰れ。わらわよりも生きる意味を持つものよ」

 囁きは誰の耳にも入らずに、宙へと消え。
 そして、足元から燐光を放つ騎士が一人、その場に残った。






[abys025.lzh] お城の人々編です。同梱ファイルは宛先の人向けです 2004/07/31(Sat)12:31
N11.lzh

SIDE:B 帰る場所

「ダークイリュージョン卿が行方不明だとっ!?」
 黒鎧の女騎士が声を荒げる。


 ここは、グラストヘイム騎士団の控えの間。

 人間に知られることのないこの場所では、
 人に『深淵の騎士』として知られる彼等も素を晒していた。


 誰が知ろう。
 グラストヘイムに巣食う魔族の中でも恐怖の代名詞にあげられるあの騎士が、

 年端も行かぬ少女や、
 洒脱な青年や…
 【逆毛】wWw【内藤】の素顔を持っている事を。


 どのような理由でかは知らぬ。

 一説では、この世に思いを残した存在が
 『深淵の騎士』の虚ろな鎧を埋めるときに、再びその魂は肉を得るのだともいう。

 また、総ての深淵の騎士が受肉を果たすというわけでもない。


 如何様な理由で『深淵の騎士』が受肉者を選ぶのかは、
 いまだ当事者達の知るところではなく…。

 ただ、彼女達は自らの新たな生と、
 新たな家である古城を守るために剣を振るうのみであった。


 失踪したと言う修道院守護のダークイリュージョンは、ダークロードの秘蔵の愛娘。
 深淵の騎士達にとって…というよりむしろ、騎士子にとっての掛け替えの無い朋友である。

 時に口論をし、時に少女同士の他愛無い話を交わす、じゃれあい、甘えあい、罵りあう…、
 その相手が突然に消えたと言うのは深淵の騎士子にとっては衝撃であった。


 「まぁ落ち着け。ミミックが怯えているだろう」
 「…すまない。」

 己の手の届かない所で起きた出来事への憤りに身を焦がしていた紅毛の少女は、
 同僚の声に一転してしおれた。

 その足元に、気にしていない、という風にミミックが擦り寄る。
 少女は上の空と言った様子でしゃがみこむと、ミミックの硬い蓋を撫でた。

 常にイリューに付き従っていた筈のミミックさえも置いて、彼女はどこに行ったというのか。


 「なぁ、ミミックよ。イリュー殿はどうされた? 知ってることだけでいい」
 いつものような飄々とした様子でミミックに問いかけるもう一人の騎士の声も、
 振って沸いたような知らせに常よりは硬かった。


 「オレ、ワカラナイ…。ニンゲン、イリュータタカウ。オレモタタカウ。オレ、メマイ」
 「…スタンバッシュか。騎士だな。…それで?」
 「イリューイナイ。ニンゲンキエル。イリューイナイ」


 うなだれた様子で説明するミミックを撫でながら、深淵の騎士子は目をつぶった。
 普通に戦いに敗れただけならば、彼女ほどの高位魔族は滅びることはない。

 もちろん生半可な人の作る縄や錠、牢などで囚われる事もありえないゆえ、
 意識がしっかりしていれば魔界に戻っているはずだ。


 しかし

 「…最近のイリュージョン卿は、何かに追われるようであったな」
 しゃがんだまま、ぽつりと呟いた騎士子の声に、もう一人の深淵も頷く。

 同じ魔族の主たるダークロードが魔界で休息に一時間過ごすのが常であるのに、
 それより力の劣る…、即ち回復の時間もより多く必要とするはずのダークイリュージョンは

 父親よりも小刻みなスケジュールで“こちら”と“あちら”を行き来していたのだ。

 それに加えて、時には騎士子たちのために騎士団の守りを助勢することまである。


 「……イリュー殿はお父上に似ず、真面目な方だからな。
  万が一疲れゆえに不覚を取ったとすれば、
  それを恥じて姿をくらませたとしても、不思議はない」

 不思議と、彼等二人の脳裏にイリューが真実討たれて滅した、ということは浮かばなかった。
 否、浮かべようとしなかった。


 「困ったものだな、イリュージョン卿にも。…ならば迎えに行くのは朋友たる我らの役目だ」

 しばしの沈黙の後、
 そう言って開かれた騎士子の目は、寸分の迷いもなく同僚の騎士を見据えていた。


 騎士子を兄のように見守る騎士も、その決意を止めようとはしない。
 「ああ、気が済むまで調べて来い。俺も本当なら行きたいが…」
 「いや、内藤もいない今、お前まで離れてここを手薄にしすぎるのもまずいだろう。任せておけ」


 その足元で、小さな箱が騒々しく跳ねる。
 「オレモ! オレモ! イクゾ!」
 「そうか、ミミック。お前もきてくれるなら心強いぞ」

  かぱかぱと開閉する箱に向けて笑いかける彼女を、
 今一人の深淵の騎士は一抹の不安を含んだ目で見つめていた。


 最悪の結末であった時、この娘はそれに耐えられるだろうか、と。






[abys025.lzh] お城の人々編です。同梱ファイルは宛先の人向けです 2004/07/31(Sat)12:31
N11.lzh

 保管乙でありますっ(AA略。

 倉庫のカッコ内を読みまして、
 手軽な連絡方法が思いつかないし、本スレで何かっていうのもあれなのでここに。


 18禁とかの表現のことなのですが…
 多分問題にされているのは

 ダークロードパパがイリューたんをからかうあたりだと思われます。


 多分、小中学生くらいでも日頃、目にする…かな? 
 という程度の表現にしてみたつもりです。


 以前、フィアネル氏の仮設けーじばんにて
 外部深淵系作品の収録について伺った折に頂いた返事より、倉庫の人がその辺は嫌!と
 推測しておりまして、住人の方の一人の意見として尊重してみました。はい。

 あれで不快感を表されるようだと…、
 ちょっと書く側としては制限がきつくなりますね。

 省みるに、自分が小中学生の頃は…、
 池波正太郎氏やら
 山田風太郎氏やら
 隆慶一郎氏やらの時代小説読みふけってたので、耳年増でしたっ 

 ゼンゼン キジュンニ ナラネェ…orz


 多分倉庫のページの独り言欄(?)でレスされるのかな、と期待したりしてますが、
 その折はこの無駄文は引用可です。

 多分、書き手様方もあそこは見てるんじゃないかなー、とかおもうわけで。


 そういう意見だよってことならネタを控えますよっと。


-----------------------------------------------------------
古城倉庫
-----------------------------------------------------------
★04/07/31
■ Σ!イリュー誕生秘話は、続編が追加され、あぷろださんに移動。
  次回の更新時、"長編"で収録します。

  (性を連想させる語は抑え目継続を希望:小声で)
  (途中でコレは流石に…→ では残念なので)
  (カッコ内、しかもスレ外部ですから、文神さんの判断にお任せします)


  書き手が直接、性を描写→ 読み手の気を引きやすい(パッと見)
         or
  行間・余韻・語られぬ場面→ 読み手の力量次第(子供と大人で棲み分け)


  07/28のヘルシングetcは→ 知らない人は置いてけぼり。

  07/30の性描写うんぬんは→ 読み手の年齢層を考慮。


  なんだ…"萌え"と言っても結局"18↑"か。と言われたりはチョット…。
  +RO内で会う自称、小中学生の割合&身近な知り合い考えると…。

  ここら辺も、人それぞれ趣味趣向ですね。


  古城倉庫の人が、気にしてる事は、
  世間一般からすれば堅物過ぎることなのかもしれません。


□アンテナに、らぐなの何か。さん&Yahoo!レシピを追加。

▼kojo:室礼で季節の変化、食事から日常が見えてきますね。
  com:生活と一体化した遺跡や古都の様子。旅の1シーンも趣があるな。
  s52:アンテナ…カクニン デキタ。マスター アンニンドウフ オカワリ?
  soko:うん。(/♪〜)
  xrea:…。(/甘〜)
  wWw:あんみつもw ヨロwww
  vVv:ところてんもv 頼んじゃvおっvかなぁ〜vvv


-----------------------------------------------------------
倉庫の人あて?へを受けて返信。


★04/08/01
■"長編"に追加。
  深淵スレに1度up、あぷろださんに再upのものは"長編"に移動。


■ "私信"ありがとうございます。
  ※私信は↑の"web拍手"でも…とはいえ、


 ・こちらも"古城倉庫"の表紙での発言です。(深淵スレ内ではない)

 ・abyss24さんの"私信"も、
  あぷろだ添付&保管収録公開ok。(こちらも深淵スレではない)


 お気遣いありがとうございます。

 私信を読んでてニヤリとしたのですが、
 実は先日の"性表現うんぬん"の後に、長くなるので削除した部分があるのです。

-----------------------------------------------------------------
□私信引用:

 自分が小中学生の頃は…、
 池波正太郎氏やら山田風太郎氏やら隆慶一郎氏やらの
 時代小説読みふけってたので、耳年増でしたっ ゼンゼン キジュンニ ナラネェ…orz


□04/07/31の削除した部分の要約。

 …できれば、TVで見たりする例として、
 池波正太郎さんの、鬼平犯科帳・御家人斬九郎・剣客商売etcくらいで…w

 ↑の古城アンテナで、
 京都とか世界遺産、室礼(季節の儀式)、Yahoo!レシピがあるのは、
 池波正太郎さん風です。

 時代小説といえばいいのかな…山田風太郎さんとか。
-----------------------------------------------------------------

 形を変え、kojo達がアンテナ&時代小説を思わせる話をしてます。
 04/08/01に、池波正太郎さんのことでも書こうかとしたら…タイミング良く…b


 abyss24さん:ゼンゼン キジュンニ ナラネェ…orz
 古城倉庫の人:同じこと考えてましたYo! (*^-')b


■読んだ方は少ないかもですが、この話題関連としては、
 左ページの"時計"03の下の方、"スレ"えろねたを持ち込んでほしくないetc

 ※収録箇所"スレ"=スレ内議論・スレの雰囲気・住民の発言。
 ※各スレの小見出しで"スレ"の部分だけ読んでいくと、
 ※スレのおおまかな変化がわかるようになっています。

 ※収録しないより、収録した方が将来的に良いと感じたものを例外的に収録。


abyss24:多分倉庫のページの独り言欄(?)でレスされるのかな、
abyss24:と期待したりしてますが、その折はこの無駄文は引用可です。

古城倉庫の人:丸ごと収録させていただきましたっ。






[abys026.lzh] ちまちま細切れですが、次で一区切り予定です 2004/08/01(Sun)19:01
N13.lzh

SIDE:B 見知らぬ天井

 イリューが気が付いた時に最初に見たものは、見知らぬ天井だった。

 記憶が混乱している。


 修道院に任務で出て、それから…。
 「…やぁ、気が付きましたね。さすがは…」

 横合いから聞こえる声に首だけを回すと、
 そこにいたのはどこかで見覚えのある聖職者だった。
 
 その口が、音を出さずに開閉する。だーくいりゅーじょんどの、と。


 「…わらわの正体を知って虜にしたか…。だが結界も張らぬとは甘く見られ…」
 気色ばむイリューの言葉の途中で聖職者がやんわりと言葉を挟む。

 「虜? 誤解があるようですね。私は騎士殿に連れられてきた貴方の怪我を診たまでです。
  ああ、それと私はシェール。この通り、聖職者です。お見知りおきを」

 言われたイリューが自分の身体の様子を探ると、負っているはずの怪我がない。
 身に着けているのは人としての彼女の衣服である上級聖職衣のようだ。

 少し着崩れているのを手で直そうとするが、まだ腕に自由が利かぬ。
 それを見たシェールが妙に慣れた手つきで彼女の衣服を整えた。


 「…何故、わらわを魔族と知って助けた?」
 とりあえず、怒るのは保留しよう、とイリューは思う。

 というより、戦いに敗れたせいか、そんな気力も沸いてこない。

 「貴女の気遣いのお陰で、私はこうして生きていられる。
  そのことに礼をしたいというのは当然でしょう」

 「…そうか、あの時の」


 ようやく目の前の男の姿が記憶の中の存在と合致する。

 自分がこの男に気まぐれで情けを掛けたことが、
 こんな形で返ってくるとは、よもや思ってもいなかっただけにイリューは苦笑いを浮かべる。


 「…とりあえず、礼は申しておく」
 「こちらこそ。…まぁ、私が生きていること自体はこの際どうでもいいわけですが」
 「…どうでも…いいとな? どういうことじゃ」

 イリューの眉が顰められたのは、目の前の男が口にした内容が…、
 彼女の奥底のどこかの思いと共鳴したからだった。

 思わず、男の意を問い返す。


 「ええ。私が死なずに済むことよりも、私の相棒を泣かせずに済んだ事の方が重要です。
  まぁ、たまたまその必要条件が私の生還だったわけで」

 「相棒…? ああ、あの女魔法使いか」
 イリューは彼女の前に魔法使いが飛び込んできた時の様子を思い出して、微かに笑んだ。


 「そう。いい笑顔です。
  貴方を倒して、そして救った騎士殿にも、その笑顔を見せて差し上げると喜びますよ」

 「…わらわを、救った? 貴公ではなく…そうか、あの騎士がか」

 倒した、のほうは聞き返さない。
 
 言われて思い出したからだ。


 あの騎士の剣に迷いは無かった。
 イリューにはあった。


 勝負を決したのはその違いだろうと、薄れ行く意識の中で思ったのを覚えている。

 二撃目を受けた時点でいつもならば魔界へと転移しているのだが、
 それができなかったのは、あの騎士の剣に見惚れて機を逸したからだった。

 「…おや、頬が赤い。熱かもしれませんね。
  私は騎士殿をお呼びしてきますが…もう少し安静を勧めますよ」
 「待て、人間」

 立ち上がり掛けたシェールの袖を掴む。

 「…なにか?」
 「教えて欲しい。

  汝は、己が生きていることよりも大事なことがあると言った。
  それは、…どうやって見つけるものなのだ?」

 聖職者は苦笑を浮かべて座りなおした。


 「名の知れた大悪魔に問われる質問としては、不思議なものですね、それは。
  問い返してよいならば、
  …貴方には、命を賭して護りたいものは無いのですか?」

 「ふむ? お主も知っておろう? わらわは修道院を守護して…」

 「それは、使命でしょう? 
  貴女以外の人でもできること、

  貴女が誰かに譲っても構わないことではなく、
  貴女にとって唯一無二の拠り所は、あの古き城にはないのですか?」

 イリューはその質問を己の胸に問う。自らが、誰かの為に死す情景を思う。


 父たるダークロードは実力からも、そして気性からも、
 彼女に守られるという立場を受け入れるような事はあるまい。

 とはいえ、父のためならばイリューはためらい無く死を選ぶであろう。

 だが、同様に考える姉妹は大勢いるし、
 イリューではなく彼女達でも立派に勤めを果たすことは間違いない。


 友たる騎士は…、別の意味でだが、彼女の助力は必要としないだろう。
 友の為に死す、その考えは少し甘美な響きを伴っていたが、
 騎士子の為に滅びを喜んで受け入れるものも他にいる。

 騎士子はイリューの為だけの女神とはなりえない。
 一抹の寂しさとともに、その事実はイリューの胸に染みていた。


 ミミックは…、そう、彼は確かにイリューを己の総てをかけて護ろうとするだろう。
 騎士子をカーリッツが守護するように、
 イリューが修道院を護るように。

 それが彼の存在意義なのだから。
 しかし、イリューが従者たるミミックのために生命を捨てることは是であろうか?

 (…それも良いかもしれぬな)

 そう思う自分に、イリューは呆れた。
 己が分身のようなあの小さな魔物が、彼女が人に連れ去られた後で一体どうしたか、
 今の今まで気にも留めなかったというのに。



 「考えてみれば、
  その者が救えるのならば、代償としてわらわが滅んでも良いと思う相手は大勢おるな…。

  じゃが、おぬしとあの女子との関係は少し違うようじゃ。
  何処が違うのかはわからぬが、な」

 「…大勢いる、ですか? ふむ…」


 「…わらわは、戦うことに倦んでおるのやもしれぬ。
  滅びに意義が持てるのならば滅しても構わぬ、などと思う程度にはの。
  魔族としては失格であろうな」

 ベッドの上で、イリューは上体を起こすと自らの膝を抱いた。
 自分にかけられていたシーツからは僅かに自分と違う人間の匂いがするが、
 おそらく日向に干してあったのだろう。それほど不快ではない。

 頬を膝頭につけるようにすると、絹糸のような黒髪がさらりとシーツの上に流れた。


 「…それで、死んでも悔いの無い何かを見つけたいと、そう言うことですか。
  うーん…。ならばまずは、死にたくないと思うこと、ですかねぇ…」

 「は?」


 姿勢は変えず、そのまま目だけをぱちくりさせるイリューに、
 シェールは本人も意識していない淡い笑みを浮かべながら、言う。


 「自分の命に価値がもてないなら、
  それを代価にして得られるものにも等しく価値はない、と思いませんか?」
 「…なるほど」

 「そうですねぇ…。せっかくですから、体が治ってからも
  しばらく人間の世界に留まってはいかがです?」

 再び考え込み掛けたイリューの耳に、聖職者のとっぴな提案が転がり込んだ。


 「魔族の世界では、あなたにもいろいろ立場があるのでしょうけど、
  ここなら“ただのプリースト”でいられます。

  …まぁ、自分から『我はダークイリュージョンなり!』とか
  言い出さなければ、誰も疑わないでしょう。
  あなた自身の価値を探すためには、その方がいい」


 人の世界。
 父親が入り浸るのを連れ戻しに来る以外では、殆ど来る機会の無い異世界。

 時に深淵の騎士たちが訪れ、土産話と笑顔を持ち帰るところ。
 思えば、イリューは彼等の留守居をしてばかりだった。


 少女の口元が、緩む。
 外見年齢相応の悪戯っぽい笑顔で、彼女は小さく呟いた。


 「……そうじゃな。たまにはわらわが手間をかける側になるのも、良いかもしれぬ」






[abys028.txt] うはwww多分www見れる 2004/08/03(Tue)22:23 N15.txt


SIDE:B 少女と騎士と


 イリューは階段を上がる誰かの足音でまどろみから覚めた。


 古城の階段は石造りゆえ、きぃきぃと軋む
 この家の階段は彼女には耳珍しい。

 そういえば、さっきは気づかなかったが、窓の下からは人間たちの声が聞こえる。

 彼女の意識が届く範囲でも20人はくだらない。
 ここがどこかはわからないが、街か村の全体ではもっと多いのだろう。

 その中に、魔族は彼女一人。
 今更ながら、孤独を感じる。

 階段を上がってきた足音の主が、扉の前で止まった。


 彼女の正体に気づいた何者かが、中をうかがっているのか? 

 あの、シェールと名乗った聖職者は彼女に敵意を抱いては居なかった。

 しかし、多くの…、殆どの人間はイリューを敵として狩り立てるだろう。


 イリューはそっと目を閉じ、扉の向こうを探った。
 おそらく、そこにいるのは彼女を打ち倒したあの騎士だろう。


 魔族としての感覚がそこから感じた物は、

 …彼女への怖れ? 
 …いや、違う。

 遠慮…か。



 あの者は、自分を見てあの時の魔族だとわかるだろうか。

「鍵はかかっておらぬはずじゃ」
 わずかな逡巡を、少女の好奇心が打ち消した。

 少し、心細さを感じて脇の卓に置いてあったコップの取っ手を掴む。
 視線が落ち着けられないことに気分が落ち着かず、床のしみに目を留めてみる。


「…入るぞ」
 ためらうような気配はそのままに、男が部屋に入ってきた。

 イリューの俯いた視界に、泥で汚れたブーツが入る。
 …多分、あの男だろう。この男は彼女に気づくだろうか?



「……」
「……」



 実際には僅かな沈黙が長く感じられて、他に縋るものとて無い少女のコップを握る手に力が入る。

 見下ろしたコップの中の水面に写る顔は、見慣れた顔。
 悪魔としての装束とは似ても似つかない、
 人の姿のイリュー。


 そこで、沈黙が破れた。

「…あー、俺はブレイドという。…まぁ、通り名だが。君は…」
「………わらわの名はイリューと申す。世話になったようで、礼を言う」


 ため息は、気づかれなかったことへの安堵か、それとも落胆か。
 自分でも分からないまま、イリューは名を名乗った。

「…依瑠…。異国の響きだな。その髪と目といい、アマツの出か?」
「……」



 アマツ。


 聞いた事はあるがどのようなところかは知らない。
 何処で聞いたのか、古い古い記憶の中に、その地名はあった。

 男の問いに頷いても構わないだろうか? 
 …駄目だ。ごまかしきれるとは思えない。


 こんなことならば彷徨う者にでも異国の地理を習っておくべきであったと、
 少女は少し的外れな後悔をする。

 しかし、この場をなんとかごまかすのが先決だ。
 目が宙を泳いだ。ああ…、そういえば人間の世界のことといえば


 『イリュー様、この間お貸しした恋愛小説は素敵だったでしょう?』
 『すまぬ、アリス。まだ読んでおらぬのじゃ。……というかあまり読む気にならぬ』

 『……記憶喪失の姫と呪いで獣にされた王子様のロマンティックな王道一直線のお話ですのに』

 『姫に一切の記憶が無いということは、当然会話もできず赤子のように這いずり回るだけであろ?
  それとけだものの王子とやらでは、何がロマンなのか、わらわにはさっぱりわからぬ』

 『………深淵様といい、イリュー様といい…』


 ため息をつくアリスの顔が思い浮かんだ。
 そうだ、グラストヘイムで一番人間の風俗に詳しいのは彼女であった。



「すまん、聞いてはまずいことなら…」
 男のすまなさそうな声が、少女の意識を回想から呼び戻す。

「あ、いや。そうではない。実はの…。わらわは、自分が何処の何者であったのか覚えておらぬのだ」
 イリューは、コップを両手で抱えると、自分の顔が相手から見えぬようにぐっと持ち上げて隠した。
 慣れぬ嘘をついて、居心地が悪いのを隠すように。


 口に含んでみると、渇いた喉に水は事のほか美味しく感じられた。

 気が付くと、ぐびぐびというはしたない形容詞が相応しい飲み方で、一息に飲み干している。
 そんな自分を、呆れたように見ている騎士と目があった。

 そういえば、戦っていた時はヘルメットを被っていたし、
 騎士の顔をしっかり見たのはこれがはじめてだ。



「…余りじろじろ見るでない。礼に適わぬとは思わぬか?」
 我ながら、世話になっている相手に無礼な物言いだとは思う。
 このブレイドという男の顔立ちはある男に似ており、それが彼女を気安くさせた。


 父では、ない。男はダークロードのような冷たい美しさとは無縁の顔立ちだった。

 古株のあの深淵の騎士でも、ない。
 飄々として、それでいてふてぶてしいような余裕は目の前からは感じられない。

 男の少し逆立った短髪とどこか自信なさげな目の取り合わせは、どこかあの者に雰囲気が似ているのだ。
 彼女の魂を分けて深淵の騎士へと転生させた者。



「…すまぬが、もう一杯水をいただけぬか? 内藤卿」
 自分の中だけで通じる冗談にくすり、と笑いながらコップを差し出すと、
 ブレイドはむっとした様子でそれを受け取った。

「……はいはい。分かりましたよ姫様。…って俺のコップだぞ、これっ!?」
「けちけちするでない」

 ほんの少し前は刃をやり取りしていた相手に、
 今はぽんぽんとたわいも無い言葉が続くのがおかしくもある。
 イリューはさっきよりも少しぬるめの水に口をつけて、また笑った。


「あー、で。これから依瑠姫はどうするんだ?」
 その男の一言で、イリューははたと我にかえる。
 本当に人間界に残るか、それともすぐに戻るべきか。

 …あの聖職者が言うように、
 ここでしか手に入らない何かがあるかもしれない、と少女は思う。
 そう思えば、言葉が口をついて出た。


「…そうじゃな…。当ては無い」
 人間の世界で滞在するのに、無知な彼女では文字通り路頭に迷うであろう。

 この内藤…いや、ブレイドという男を頼っても良いのだろうか? 
 修道院でのこの男の剣は迷いが無く、邪心が感じられなかったが。

 それよりも、頼って断られたとしたら…どうしたらよいのだろう。
 イリューは誰かに頼るのが苦手だった。

 深淵の騎士子の居室を訪れたあの時まで、そんな経験はなかったし、
 これからもないだろうと思っていた。

 とはいえ…試してみても、古城の誰に見られるわけでもない。
 イリューは、戦いに赴く決意をした。



「…しばらく世話になるぞ」
 頼り上手のアリスの真似をして、頼むのが当たり前のような顔をして押す。

 イリューの見たところ、アリスの甘えの極意は、
 強気で押して押して押して、最後にちょっと引くことだ。

 深淵の騎士子にはいたく効果的なようだったが、人間にはどうだろう。
 そして、アリスではなくイリューの甘えを、誰かが受け入れてくれるものだろうか?


「……待て。俺に選択の」
「乙女の肌に傷をつけたのじゃ。それくらい安いものじゃろう?」
「あのな、仮にも“乙女”が男の部屋で夜を過ごすのはまずいだろうに」

 男の部屋に同宿するつもりなどなかったのだが。…そう取られても不思議はない物言いではある。
 イリューは内心の動悸を見せぬように時間をかけてコップの中身を口にした。

 こんなちょっとした言葉の勝負でも、イリューから一本取った騎士は、勝ち誇っているだろう。
 そう思って、ちらりと見た男の顔は困ったような、驚いているような。

 本気で…照れているような。

 イリューの心に微かな悪戯心が芽生えた。
 剣では自分に勝ったはずの男の困る顔をもっと、見てみたいと思う。


 水をもう少し口に含んで落ち着いてから、くすりと笑って告げた。
「案ずるな。おぬしが不埒な所業に及んでも、わらわには対処する用意がある」
 逃げるなり、素手で負ける気はせぬ人間を叩きのめすなり、幾通りもの対処があるわけだが。


「…た、対処って…」
 男の擦れた声には、イリューは“小悪魔のような笑み”で答えた。
 魔界の王の娘でも、大魔族でもないただの娘としての自分の一言一言に、
 ブレイドが妙にうろたえているのを少し不思議に、そしてそれよりも面白く思う。

 今まではどちらかといえば人見知りだと思っていた、そんな自分が初対面の人間と
 軽口を叩けるのが不思議で、イリューはコップの向こうで相手に見えないように舌を出した。


「待て待て待て。俺があんたを巻き込んだのは悪かった。認める」

 イリューの放った言葉のハンマーフォールから覚めたらしい騎士が、
 今度は口を挟む隙もない速度でまくしたてる。
 ツーハンドクイッケンで押し切ろうとしているのだろうか。


「…だが、あんたを養えるほど俺には甲斐性が無い。金もないし……」
 真面目に案内を頼むのは、もう少し言葉遊びに付き合ってからでもいい。

 そう思ったイリューは、早口の騎士の声を聞き流していく。


「……それに、強くもない」



 騎士の、最後のその小さな一言が、それだけがイリューの耳に残った。


 まず感じたのは憤り。大悪魔たる自身に勝ったはずなのに、そのような言葉を吐くとは。
 むっとしたイリューはコップを置いて男を睨んだ。この男の目は鏡のようだ、と埒もない考えがよぎる。


 何故、この男と話していると居心地がいいのか。
 何故この男から内藤と似た匂いを感じたのか。

 強くないのではない。自分の強さに意味が見い出せないのだろう、と少女は思う。
 まるで、寄る辺のない子供のように、己の力を振るうよすがを求めて、
 迷っているこの男の目は、強さの光と彼女の良く知っている陰を持っている。

 かつて彼女がその前を通り過ぎることができなかった
 ある男の魂と、同じような陰。


 そして、その陰は彼女の中にもあるのだ。本人は、いまだ気づかない光と陰が。



「男を捜すならもっと頼りになる奴をだな…」
 とっさに立ち上がり、伸ばした指先で話し続ける口元を押さえると、騎士の目が白黒した。

「…そこまでじゃ。おぬしに甲斐性がないのはわかった。
 金についてはわらわもさほどではないがあてがあるから心配は要らぬ」
 ここで一息つき、相手に口を挟ませぬように、一気に言いたい事を喋る。

「そして、強さについてじゃが、お主の立会いをわらわは見ておった。
 ブレイド卿、おぬしは強い。心配せずとも良いぞ」
「…あ、ああ」
 騎士がはっとしたように、イリューを見る。

「…俺は、強いか?」
「ああ。でなければ…」
 そこで僅かに言いよどみ、気恥ずかしさに目をそらそうとすると、
 騎士はイリューの頬にそっと手を当てた。
 彼女の黒い瞳を、男の淡い茶の瞳が捉える。

「でなければ?」
「……わらわがここに居ることもなかったであろ?」
 照れたように微笑むイリュー。内藤に似た騎士も、照れを隠すように笑っていた。
 どこか旧知の友と話しているようなこの感覚。不思議だが、不快ではない。
 ふわふわとした感覚だ、とイリューは思う。

 確かにこの感覚は、古城では味わえなかった物かもしれない。



「…一緒に居る間は、働いてもらうぞ?」
「よかろう」

「それから、俺に卿づけは却下」
「む…わかった、ブレイド殿」

「殿も却下」
「……ならば、おぬしもわらわを姫と呼ぶでない」



 イリューはそういって、大輪の花のようににっこりと笑った。






[abys030.txt] 倉庫の人に 3kB 2004/08/08(Sun)03:43 倉庫の人向き.txt


--以下 倉庫の人向き。というか、匿名性を維持した連絡手段が当方にはありませんし、
 フリーのメアドを取るのも面倒なので嫌です。

 アプロダの私的流用を謝罪します。
 Fianel様の方で不適当と思われる場合は削除をお願いいたします。
 削除キーは倉庫の方にも通知してありますので、ご覧になったら消していただけるといいなぁ--


 で、色々と倉庫の中の人を不愉快にさせたようですので、最初に謝罪しておきます。
 どうもすみませんでした。
 私は頭が良くないのでわかんないのですが、

 こう、いろいろと私の意図も誤解されているようなので以下、言い訳とかします。
 (と、書いても匿名板では本人確認できないので無効なのでしょうか? 一応本人なのです)
               ■公開の場で、長文を投下して話す偽者はいないでしょう。
               ■=いずれ本物が現れ、指摘されるでしょうから。

               ■古城倉庫の人。→不愉快が原因で怒るのは"極めてまれ"です。
               ■不愉快な点はありませんでした。
               ■公開投稿した時点でお互い同じ土俵に上がりましたから。

               ■非公開で、収録ログ(公開分)への変更を望むのなら、
               ■同じ土俵に(=公開質問とは言いませんから、メアドを!)
               ■ということです。

 「作者としては、作品の一部のつもりで題名をつけたので、収録時にそれにしてくれるといいな」
 という“希望”であって、そうしろと“命令”したつもりは無かったのですが…。
               ■こちらも希望と読んでます。
               ■ただし非公開でしたので、警戒してました。

               ■関係することも話す実例になる、と思い長文を作成しました。

               ■非公開だと、暴言・命令・非難・中傷いろいろあります〜。
               ■見えない場所だと気が大きくなるみたいです〜。

 あと、せっかくの匿名板ですので、メアドなどは今後も出すつもりはありません。
 >本人確認ができないため"プロバイダのメールアドレス添付"をお願いしました。
 とのことですが、すみません。嫌です。理由は書かなくても分かりますよね?
               ■わかります。
               ■メアドを出さず、web拍手を置いてるのもそのためです。

 こちらの意図としては2番の「回答を求めていない」です。
               ■なので2番の回答を用意しました。2番目なのにも意味があります。

 対応はやるかやらないかの二択ですから、見れば分かりますし。
 やるにせよ、やらないにせよ理由はどーでもいいのです。

 あと、倉庫さんの運営方針の説明も私は別に要りません。
               ■作者本人さんでなく、偽者を考慮しての理由説明です。

 うちとは方針が違うのも重々承知です。
 どうしても作業内容の理由説明をしたいというなら、
 方針に合わなかったからこうした、とか
 方針にあっているのでこうした、などの一文レスだけで十分です。
               ■同感です。今回は"良い機会"と見て長々説明しました。

(私がお金を出して労力を買っているクライアントだったら納得いくまで説明を要求…
 しないだろうな。趣味の問題でそういうのはめんどくさいから)

 急かす気もないので、一度WEB拍手で意思表示送った後はほっといたかと思うのですが…。
 即時対応を求む!とか高圧的に言っていたように思われたら心外です(´・ω:;.:...
               ■原文を引用しても良さそうなのでしますね。

 ■08/03 11時 保管乙です! で、イリューの話の作者なのですが、
 ■    一応タイトル付なのでそちらにして貰えると嬉しいです
               ■何気ない、なんとも悪意のない文ですね
               ■しかし、それを元に行動して以前嫌な思いをしました=偽者。
               ■なので気をつけています。

               ■…なぜ、この文章くらいから…と思われるでしょう。
               ■内容の大小から言えば、大した事はないです。
               ■偽者による悪戯で動くのは避けたいということです。要は。

               ■例えて言うなら、狼少年&戦争準備の鐘と傾城の美女
               ■=本当に必要な時(動くべき時)を見逃してしまう。

    ■今回、ハッキリ過ぎるくらい書いたのは、収録ログで言う"スレ"の部分だからです。
    ■最初の人は面食らうかもしれませんが、後続者に指針ができました。ありがとう。



 倉庫の人の真似で極論すると。
               ■他の方からも同じ事を言って頂けると助かります、ありがとう。


 スレに投下したものはトリップも付けてないので本人確認なぞなし。
 どこに転載されようが、他人に「俺が書いた!」と主張されようが、
 どーでもいいつもりで書いてます。

 もちろん赤の他人にそげなこと言われたら腹は立つので、
 以降の執筆とかに支障はでると思いますが(笑
               ■そげな…って、どこの方言なのかなぁ、何か良いなぁ(関係ない)
 著作権放棄って奴ですか? 
 そういうのにはからきし詳しくないのでそれであってるかどうかはわからないけど。
               ■著作権は厳密に言うと放棄できないようです(関係ない2)

 なので、希望こそ言いますが、倉庫の人を縛るつもりはないのです。
 私は倉庫の利用者、あなたは纏めてくれる善意の人。

 収録見送りするのも、そちらで適当と思われるようなタイトルをつけるのも、
 作者の意図と違う所で改行を入れるのもご随意になのです。
               ■こちらの希望とも一致です、裁量を与えてくれてありがとう。



 で、SIDE系シリーズの方法論については、倉庫の人が嫌いなのはわかりました。
               ■含みのある表現についてですね。SIDE B → SIDE Aの存在を暗示。
               ■あとあと、きちんと所在地情報を作者さん自ら明らかにしてます。
               ■=事情を知らない方へも十分配慮してくれましたね、ありがとう。

               ■嫌い…には幅がありますが、
               ■読者に配慮=すんなり読めるか、元ネタ知識が必要かetcを重視。

               ■意見と事実は違います。
               ■意見は個人的な趣味趣向=好き嫌い。一個人の都合によるもの。
               ■事実は公的な視点を含む=多くの人に当てはまる不都合など。

               ■古城倉庫は、多くの人への配慮がされてるかどうかを気にします。
               ■倉庫の人が嫌いなのはわかりました=意見だけを見てるよ〜な〜。
               ■古城倉庫の気にしてるのは、事実の方です〜。

 そういう意見も在るだろうとは思うのです。
 それは一住人の意見として粛と受け止めつつ。
 私は自分の好きなようなものを書いて今後も投下するでしょう。
 私は作者、あなたは読者。嫌いなら読まずに飛ばす自由があります。あぼーん機能万歳。
               ■粛と受け止める誠実さと、飽くなき投稿意欲。
               ■その2つをいつまでも忘れずに〜。がんば〜。

 何が言いたいかと言えば、肩肘はらずに行きましょうよ、です。
 私はスレ住人、あなたもスレ住人。
 その意味では、おんなじ権利を持ってるわけですし。
               ■そうです。上も下もありません。代弁してくれて、ありがとう。

 なお、返答不要ですよ。
               ■またまたそんな!ここまで書いてて奥ゆかしいとかダメですよー。
               ■こんなに丁寧誠実に、文神さんの人柄を伝える文を不要だなんて!
               ■丸ごと収録させていただきます。レス付きで。

 まだ何かもやもやしたのが収まらないようなら、
 私の作品を削除していただければいいですし。
               ■潔いです。流石にまとめサイト側の事情を良くわかっていますね。
               ■残念なのは、古城倉庫の人の性格を見誤っているところかな。
               ■それを見越して先回りされ過ぎても困りますが(笑)



 下記、保管いただいている分の私の駄文一覧デス。
 今まで同様にご自分のペースで頑張ってくださいまし。
               ■作者さん自ら、リスト表示してくださったのでLinkつけときます〜
               ■ありがとう〜。

短3-
栄枯盛衰は世の常。…仕方があるまい
短5-[アップデート情報] 7月3日
   …ん、どうした、カーリッツ
   月に一度「宴会当番」

   そろそろスレも終りだな、剣の
   古城のいつもの日々は続く。
   感じたら書く。それが真理

長1-住人じゃない方用にキャラ紹介
   走馬灯
   イリューは肩に担いだモノを
長2-いずれ時が来れば
長3-全部



★04/08/08
▼kojo:…ずいぶん書いてるんだなぁ…(笑)
 com:不器用と言いつつマメなのが、なんとも好感だな(好漢でも可)
 s52:シンエンスレハ シアワセモノ ダナ。マスター モヤモヤ ハレタ?
 soko:うん。(♪〜)
 xrea:…。(♪〜)
 wWw:うはw おkwwww
 vVv:あはっvv おっけ〜vvv がv んv ばv っちゃうv よ〜♪♪



追伸。

 削除キーで笑いました、ありがとう。
 最後まで手を抜かずオチを付ける所に職人芸を見ました。
 =これは含みを含む表現ですね。

 8051=BDS!=古城倉庫のRAG-CODEです。
 公開番号としました、消えるも良し、残るも良し。=古城倉庫を見れば事情もわかるから。

 古城倉庫は確認しました。作者さん自らが消去される方が幕引きとしてはキレイかな?


 あぷろだ利用は、住民にも情報公開することになるので、
 古城倉庫としてはありがたいです。

 非公開の問い合わせで、返信手段がないと公開回答=古城倉庫がリスクをある程度負います。

 非公開での問い合わせについて、作者さんはかなりビックリされたようですね。
 驚かせすぎてごめんなさい。

 本人確認と、スレへの思い&人柄を感じさせる文と、投稿作品リストが入手できました。
 もし偽者さんの投稿だったとしても、怪我の功名でした。

 数々の言葉で、古城倉庫の伝えたい事を代弁してくれました。

 頭が良くないので…と作者さんは言いますが、古城倉庫の意図は正確に伝わっています。
 同じことを…考え、思い、感じて、お互いに長文を送りあう、…ハァ(何) それは既に恋仲(マテ
 きっと親同士が反対してて…(ぉぃ)、本人同士も些細なことですれ違い、まさに!(ぉーぃ)
 ※すれ違いとスレ違い、をかけてるのは気のせいですよー。

 …とそれは冗談としても、
 誠実に答えてくれたことは"深淵スレ"と"古城倉庫"の今後に役立つと思います。ありがとう。



 このさいですから、スレへの投下分も回答しておきましょう。




184 :29の人 :04/08/08 03:06 ID:4wOG3lsx
 なお、29をアップしたのをここで告知しなかったのはアレです。

 某とりあえずの人に絵のお礼に捧げてみた物なので、
 (読んでもらうのはウレシイのですが)自分で宣伝はちょっとしたくなかったからなのです。
 妙なこだわりでごめんなさい。
                 ■投稿報告するしないは作者さんの自由ですね。

 気が付いた人だけ読めるようなのは嫌いだっとかいう向きも倉庫方面にあるようですが、
 そういうのじゃなかったのですよ。
                 ■さて…ここです。
                 ■あぷろださんの掲示板も参照されると良いのですが、
                 ■古城倉庫が気にするのは、"事実"=他の方への配慮。

 アプロダ様にあげたらスレに報告義務がある! というのがルール?なら、
 不勉強でもうしわけなかったです。
                 ■謙虚は美徳ですが、卑屈なのは見苦しいですね。
                 ■と、簡潔に回答。



 >気が付いた人だけ読めるようなのは嫌いだっとかいう向きも倉庫方面にあるようですが、
 >そういうのじゃなかったのですよ。


 131 :(○口○*)さん :04/07/29 14:46 ID:7RUWxLmx
 すごく長くなりそうなのを少しづつ投稿していい?(´・ω・`)

 133 :SIDE:B 悪魔の苦悩(1/2) :04/07/29 20:39 ID:7RUWxLmx
 131です。多分ですが、長くなりますことをお詫びいたします(リアル時間もスレ消費も)
 ■古城倉庫『…SIDE:B? となるとSIDE:Aもありそう。=含み系?』

 155 :SIDE:B 見知らぬ天井 :04/08/01 19:03 ID:ET/JQybF
 露骨にどっかから取ってきた題名なわけですが
 ■古城倉庫『…版権物?=含み系?』

 160 :SIDEなんとかの人 :04/08/03 23:15 ID:nLCTfWPG
 あー。もう秘密にして一人でニヨニヨしてたネタを吐くっ。
 暇つぶしが入用でしたら、
 某萌え板小説スレの「SIDEA:」というシリーズをご覧になってくださいまし。
 ■古城倉庫『SIDE:Aの存在を確認。=最初から紹介でも良い感じでしたね。』



 >気が付いた人だけ読めるようなのは嫌いだっとかいう向きも倉庫方面にあるようですが、
 >そういうのじゃなかったのですよ。

1、気がついた人だけがより深く楽しめるのは、書き手としては仕込み所=ネタの奥底

2、もちろん
  何も知らない方が読んでも伝わるのなら、気にならない。=知らない方にも配慮済。
  何かを知ってる方も楽しめます。
  両者にバランス良く楽しんでもらえるのも、書き手の腕の見せどころだと思います。

 >気が付いた人だけ読めるようなのは嫌いだっ
  これが、どういうものを指しているかというと、読む方への配慮がないものです。
  (古城倉庫が感じる範囲で、です。 =万人に共通する基準ではありません)

□ 131の07/29から160の08/03までは、SIDE:Aの存在をほのめかしていたように感じました。
  萌え板の方で、同姓同名の方が活動していたとしても、別世界での出来事として見ます。
  古城倉庫が気にしてるのは、その点ではありません。

  作品中のタイトルは作品の顔。作者さんとしては気になるもの。
  そこで並行世界の存在があることをほのめかすのなら、

  最後まで何も言わずにさりげなく済ますのはハードボイルド。(言葉少ないのもダンディ)
  最後に"1人でニヨニヨしてたネタを吐くっ。"=なら今までほのめかしていたになるような。

  つまりはそういうことです。
  SIDE:Bだけなら、あぁ…過去の作品群とまた違うという意味を込めてかなぁと思います。

  …とはいえ、もしやと調べて見るとSIDE:Aがある。
  言わずに済ませるのかな??? と思っていたところに
、   "1人でニヨニヨしてたネタを吐くっ。"と来たから、ほのめかし、と読みました。


□ 古城倉庫の人のように極論を…と少し前に表現されていましたが、
  "意見=個人の思惑"と"事実=不特定多数が感じる不具合"を見間違えないように、
  "否定"と"批評"もまた違うものだと思います。

  あいまいさを排除してるので、極論に見えたと思います。
  極論であれ、建設的に向かうものならよろしいかと。
  そして、作者さんの言う極論も非常に具体的で建設的です(*^-')b ありがとう。

  もちろん、批評の名を借りた否定もあるでしょうが、
  それが将来に続くものか、芽を叩き潰すものかで、区別できるはずです。

  いくら叩かれたとしても、投稿を続けますという姿勢は素晴らしいものです。
  そして周りの話に耳を傾ける気持ちも持ち合わせています。
  車の両輪と同じで、どちらかが欠けてもうまくいかないでしょう。


  言葉そのものを見て感じるものもありますが、(漢字は表意文字=字自体に意味がある)
  一呼吸置いて、その意味を読み取ること。  (アルファベットは表音文字。音が大事)
  これも場数です。あせらずに。


□ 頭が悪いから…と公開の場で発言された勇気は買います。
  ですが、それが謙虚でなく卑屈なだけなら、逆の印象を受けます。

  頭が悪い=スレ汚しすまん=初心者だから、は免罪符じゃありません。
  これからがんばろ〜と言う気持ち、すがすがしさがあるからこそ、周りも優しくなるのです。

  ガンバレ〜という発言とか、初心を思い出す方とかです。
  ここらへんは、ありがとうスレや昔話スレでどうぞ。


  少し考えてもわからないことは聞いても良いと思います。
  抱え込んでも、答えはたぶん出ないですから。

  ただ時間を過ごし、忘れてしまう(考えなくなってしまうこと)よりずっと良いです。
  何度失敗しても食いついていくこと、何歳になってもそうありたいものです。

  …とはいえ〜、
  古城倉庫が見るのは外面的なこと。=他の方への配慮。
  個々の作品の内面に立ち入り作品性を評価することは "し ま せ ん"

  今回は、問い合わせに関しての返信です。






[abys033.txt] (´・ω:;.:... 2004/08/23(Mon)04:04 N18.txt


SIDE:B 太陽が昇れば

 「…ダークロード閣下、新手のイケナイ遊びですか?」
 剣呑な爆発音が聞こえてくるのを確認してからきっかり10秒。

 まだ煙を吐くダークロードの居室の入り口から、
 やや呆れたような声で深淵の騎士が声をかける。

 受肉を果たした騎士で、古城にある者としては古参の男の騎士だ。
 「……」

 いつの間にか逃走…いや、妻への弁解と言う名の
 新たな戦場に旅立ったバフォメットの前途を思って瞑目してから、

 ダークロードはまた、指を一つ鳴らす。
 黒焦げだった居室はあっさりと元の様相を取り戻したが、
 深淵は今更それに驚くことも無い。

 「イリュー殿の件ですが…何かご存知じゃないんですか? 閣下」
 「…さて、なんのことか」
 「私の同僚が娘さんを探しに行っているので。できれば、裏は抑えておきたいのですが」


 「ふふふ…」
 いつもと変わらず、ずけずけとモノを言う騎士を前に、
 闇の王は楽しげに笑うと指を二度鳴らす。途端、部屋の奥の暗がりに二つの影が湧き出した。

 「お呼びですか」
        「私たちを」

 その姿はイリューに瓜二つで、異なるのは目の色と淡い髪色のみ。
 片方が琥珀、もう片方は藍。

 「イリューシャ、イリューセラ。イリューが修道院を出た。
  お前たちは我が護衛の任を離れてかの地を護れ」

 「ご命令と…」
       「ありますれば」
 「否やは」
     「…ございません」

 「「父上」」

 ひゅおん、と風の舞う音を残して、二つの影は姿を消す。

 あの距離で、彼に気配すら感じさせなかったのは、彼女達の技か。
 否、この部屋の主の幻魔力の底の深さに、深淵は改めて克目する。

 「深淵よ」
 「…は」

 「あれらと、イリューの違いが分かるか」

 「……髪の」
 「色とかしょーもない事を言うのは期待しておらんぞ。
  そういうボケはお主の役どころではあるまい」

 返答に困る深淵を他所に、ダークロードはどこからともなく杯を取り出し、自ら注いだ。


 「あれは生粋の魔族だ。だが、イリューはな。人であり、魔でもある」
 「……やはり」
 思うところがあったのか、深淵は頷く。

 「人は一人で生きるべく生まれず、魔族は本来群れを成さぬ。
  この相反する二つがイリューを内より苛んでおるのだ。
 
 人はその本質ゆえに、共感できる者に飢える。
 それを、イリューは魔族の感覚で見つけたのであろう。

 …いずれはそういうこともあるであろうとは、予想済みであった」
 平然とした口調で言うと、闇の王は薄く笑った。

 黙したままの深淵に向かって
 「魔族はその本質ゆえに、このまま時が動けば早晩人に敗れるであろうが…、
  お主達やバフォメットの娘のように、人に近き魔の存在ならば、変えうるのかも知れぬ。
  もしもそのような芽があるならば、我はそれを見たい」
 「……は」

 「その為に、娘に何れかの試練があるとしても…、我が保護の羽を伸ばすが良しとは限るまい」
 「………」

 頷いたままの深淵の耳に、とくとくと酒の注がれる音が聞こえた。
 今宵のダークロードの酒量は、常に増して多い。


 「巣立ちの日の太陽が昇れば、親鳥に成せる事は何が起きようと
  ただ、見守ることのみよ。……よいな? 深淵」
 「……御意」

 深淵の騎士は、更に深く頭を下げた。威圧感が消える。
 騎士が頭を上げたときに、そこにいたのはいつものダークロードであった。

 「…ああ、土産にそこのみかん箱を持っていってくれ。
  その…しんぷちと皆で分けるようにな」
 「は…」


 ----

 いつものように、イリューはまどろみの中で目覚めまでの時を怠惰に過ごそうとしていた。
 どんどんとミミックが跳ね回る音に耳を塞ぎ、シーツを体に巻きつけるようにする。

 ん? …ミミック?

 「…ブレイドさん? 寝てるんですか? 入りますよ」
 「…む?」
 扉の開く音と耳慣れぬ声に、跳ね起きてから、イリューはようやく現状を思い出した。


 「…おぬしは、誰じゃ?」
 まっすぐ伸ばした右手には、これも無意識のうちに“取り出した”骸骨の杖。
 それを見知らぬ男につきつけて、イリューは中年の男に問い掛けた。

 左手は、肩から滑り落ちるシーツを胸元で抑える。
 こういうときは、なだらか過ぎる自分の体が殊の外恨めしい。

 「…あ、いや。その、し、失礼いたしました、レディ!」
 男の目は、自分の鼻の先で禍々しいオーラを放つ杖の先端を
 食い入るように見つめている。

 「誰か、と聞いておるのじゃが?」

 男がしどろもどろに答えるのを要約すると、
 男は宿の亭主であり、
 かの騎士を訪ねてきた男女連れが階下にいるのを知らせに来たということらしい。

 「そうか? わかった。下がれ」
 「…あ? は、はい、失礼いたします」
 男はくるりと反転すると、手足を揃えてかくかくと退室していった。

 イリューはさらさらとした黒髪に手櫛を一度だけ入れると、
 ブレイドの寝ていたあたりを見る。

 ベッドを彼女に譲った騎士は床で寝ると言い張り、
 イリューもありがたくその好意を受けたのだ。

 そこに広げてあるマントは昨日寝る前に見たまま。
 鎧兜も綺麗に積んだまま。だが、

 「…剣だけがない、か。鍛錬かの?」
 そう思って耳を澄ませば、窓の外から聞こえる気合の声。確かにあの騎士だ。

 建付けの良くない窓を苦労して開けると、
 ほとんど真下で一心に剣を振るブレイドの姿があった。

 振り上げ、下ろし、薙ぎ上げ、払う。
 基本の型を、繰り返し繰り返しひたすらに励む姿。風のように優雅に、氷のように鋭く。


 「…くしゅっ」
 小さくくしゃみをしてから、イリューは目をぱちくりとさせた。
 どうやら、下着一枚といういつもの就寝スタイルのまま、
 窓の所で見とれて居たために体を冷やしてしまったらしい。
 ずり落ちかけていたシーツを肩上まで引っ張り上げてから、イリューは大きく息を吸い込んだ。

 「…朝から精が出るのう?」
 少女の声に、騎士の動きがぴたりと止まる。

 イリューを見上げた男の目は日差しのせいか、眩しそうに細められていた。
 「…ああ、すまん。飯か」

 男の声に、はたと思う。そういえば、食事も取らねばならない。
 それには人間の世界で通用するお金というものが必要なのだと、イリューは知っていた。
 それは、後でなんとかしなければなるまい。

 とりあえず、今は。
 「宿の亭主殿が呼びに参ったのでな。お主に客が来ておるらしい」
 「そうか、じゃあ水を浴びてから行くと伝えてくれ」
 「わかった」

 それだけのやり取りが終わると、
 イリューは纏っていたシーツをベッドに放り投げ、手早く聖職衣を身に着ける。
 さすがに、下着は昨日の物をそのまま履くのも嫌なので、念じて魔界より召喚した。
 服のほうも、魔力で呼び出せば早いのだが、
 人間の世界に居る間はなるべく力は温存しておきたいので諦める。

 「…この人間の聖職衣というのは、足元が妙に肌寒いのじゃな…」
 誰にとも無く愚痴りながら、少女は階下へと足を向けた。


 階下に居たのは見知らぬ二人連れだった。
 どことなく、昨日の聖職者と魔術師を想像していただけにイリューは僅かに落胆する。

 既にブレイドと話しはじめているようだったので、
 邪魔にならないようにテーブルの逆側に座った。
 騎士と同じ高さのイスに座ると足がぶらぶらするのが腹ただしい。

 「主人、彼女にも適当に朝飯を」
 「へ、へいっ。すぐにっ」

 朝方に顔をあわせた中年男が妙におどおどした様子なのがおかしく、
 イリューはくすりと笑って卓にひじをつき、
 男が包丁やらフライパンやらを器用に扱うのを眺めた。

 片手でフライパンを持ったまま、逆手で卵を割ると目玉焼。
 アリスならばあのような器用なこともできるのだろうか。
 埒もなく、古城の仲間の顔を思い浮かべようとした、
 イリューの耳に、ブレイド達の会話が聞くともなしに入る。

 「…ブレイドさんのお連れ、その方ですか」
 「旦那、そういう趣味だったとはネェ…」
 その声に首を向けると、
 ブレイドの話し相手だったらしい女聖職者と詩人がこちらの様子を伺っていた。

 視界の隅に見える騎士は口元をゆがめたまま、
 「そういう理由でな。今日は狩りには付き合えん」

 どうやら、ブレイドは彼らの誘いを断ったらしい。
 どういう理由かは、想像できるようなできないような。

 「…そうですか」
 「しょうがねぇ。旦那抜きでもやってみるさ」
 二人は勢い良く席を立つ。

 イリューの脇を通る時に、ちらりと向けてきた目は
 初対面の割りにあまり好意的なものとは思えず、彼女は少しむっとした。

 騎士がその背に声を投げる。
 「…待てよ。何をそんなにあせってる? 明日なら付き合えると言っているだろう?」
 立ち止まった二人から返ってきた語調は、ほんの少し弱かった。

 「俺とテスラと、二人でも拾ってくれるっていう砦持ちギルドがあったんでね。
 ただ、その条件が」
 「一人当たり加入金20Mzenyだったので、…少々手元不如意なのです」

 彼女にはよくわからないが、ブレイドにはそれだけで理解できたらしい。
 なにやら複雑な表情をしながら、彼はそれ以上は何もいわずに二人を送り出した。

 見つめるイリューに気が付くと、騎士は寂しげな顔を一瞬だけ見せる。
 それから、いつもの調子に戻った。

 「さ、早く食っちまえ。それから出かけてお召し物を調えないとな?」
 イリューは何かを言おうとしたが、言うべき何物も見出せず。

 何も言えない自分に、ただ苛立ちを感じるだけであった。






[abys036.txt] 遅れてごめんなさい(´・ω・`) 2004/08/31(Tue)15:45 N19.txt


SIDE:B w潜入W調査w

 イリューが行方不明になる、だいぶ前。
 「…いい身分ですな、ダークロード公」

 呆れたような声の中に幾分かの羨望の響きをこめて言ったのは、
 ゲフェン塔の護りたる魔族、ドッペルゲンガーだった。

 それを、
 古城の主にして闇の貴公子とも(主に自称で)言われる魔族は恨みがましい目で見上げる。

 彼の横たわるベッドは貴公子を名乗る者が臥すには
 質素に過ぎるようなパイプ作りのものだったが、

 その向こう側で甲斐甲斐しく世話をする看護帽を被った少女と見事にマッチした背景だった。
 幻影を司る魔王であるドッペルゲンガーは、素直に闇の公子の技量に感嘆する。

 幻を操る技ならば自分に分があるやも知れぬが、
 調和に関しては千年の歳月を経た大悪魔に及ぶところではない、と。

 彼の眼差しの先の人物は大きく鼻を啜った。
 「……ずび…よげいなおぜわだ」
 「よくまいったの。なにもないところじゃが、ゆっくりするがよいのじゃ」

 ドッペルゲンガーがよくよく見れば、
 少女の手が決して患者に触れないように動いているのに気が付いたかもしれない。

 だが、この二人がかつては愛し合った仲であったこと、
 それを触れずの呪いが割いた事は、
 彼らに比べればまだ若いドッペルゲンガーが知りうることではなかった。

 どこか踏み込みにくい雰囲気を感じつつ、彼は咳払いを一つする。
 その後ろから、今宵の新たな客が安っぽい作りの扉を開けて入ってきた。

 「遅れてすまぬな。……ぶっ…わはははは! なんたる様だ、ダークロードよ! 
  余人は知らず、貴公だけは風邪など引かぬと思っておったぞ」

 「こやつはきわめつけのばかものだからの。
  かぜをひかないのはなみのばかものだけなのじゃ」

 開口一番哄笑をはなった男は魔王バフォメット。
 それに答えて、にこやかに笑いながら、
 闇の王を一言で切り捨てる少女に幻魔の王が唖然とする。

 「わざわざ人を呼びつけておいて病中であるか。
  まぁ、閣下がそういう方なのはいつものことだが」

 そして、重々しい声を発したのは騎士団長のブラッディナイトであった。
 元より人姿が基調のドッペルゲンガーは置いておくとして、
 バフォメット、ダークロードがそれぞれ人の姿をとっている横で、
 無頓着に大鎧のまま現れた堅物の騎士は一人異彩を放っていた。

 近年不安定となりつつある冥界より出ることあたわぬ不死の王こそ姿を見せていないが、
 これで魔界の主だった者が一堂に会したことになる。

 「…さては、我等は閣下の見舞いに呼びつけられた、ということか?」
 説明しろ、と言わんばかりの目つきと口調で血騎士がベッドの上のダークロードを睨む。

 「…我が呼んだわげではない」
 「ええ、魔界の重鎮たる皆様にお集まりいただいたのは、私の一存でして。
 失礼ながら私の塔では皆様のお越しに不足かと、ダークロード公にお声かけ頂いた次第です」

 意外な方角からの返事に、血騎士は驚いたように鎧を軋ませて向き直った。
 「どういうことか?」

 「実は、最近ゲフェン塔内にて、低級魔族の行方不明事件が続いております。
 それが…その、私の着任前の事件と様相が似ておりまして」
 「ふむ…」

 ドッペルゲンガーと呼ばれる魔族は死した人の姿を盗む力を持っている。
 だが、時に己が模した死者の記憶に取り込まれてしまう事があった。

 ある者は新たな生を求めて、ある者は人としての生前の心残りを果たすべくゲフェン塔を去る。
 それがゆえ、ドッペルゲンガーは魔王と呼ばれる格の魔族にしては、入れ替わりが頻繁だった。

 今、この場に居るドッペルゲンガーもその例に漏れず、魔族としての生こそ長けれど、
 ゲフェン塔の主を名乗ってからの年月は人の暦の一年にも満たない。

 「お主の前任は、確かその件の調査の為に人界に向かい、
  解決は果たしたが消息を絶ったのだったな」

 問いかけというよりは確認の口調の血騎士に、幻影の王は頷く。
 「…ある意味、貴公の眷属は人に最も近い。
  人の間に身を置けば我を失うこともある、やもしれぬな」

 「……ぞれを言うのはどのぐちだ…ずびっ…」
 しれっと己は棚に上げて言ってのけたバフォメットを、
 ベッドの上から呆れたようにダークロードが見上げる。

 そもそも、
 調査中のドッペルゲンガーをそそのかしてゲフェン塔に戻らぬ決意を固めさせたのが
 バフォメットと連れ合いの聖職者だ、という噂もあるというのに。

 「ここに、失踪前の前任者の報告書があります。
  どうも、古代の魔道師の手になる魔素抽出装置を発掘した人間たちが、
  魔素の集積体たる我等を捕らえて利用しようとした…、ということのようです」

 「話は聞いておる。得た過ぎたる力に奢った奴等は、
  同族たるヒトの討伐を受けて滅んだそうだな」

 血騎士の相槌に首を縦に振り、ドッペルゲンガーは話を続けた。

 「今報告を受けているのは、第二層の低級魔なのですが…、
  倒されたのではなく、連れ去られたという目撃報告がありまして…、
  調査したところ、確かにドラキュラ候の配下に不自然な欠員がありました。
  あの件に、似ている物と思われましたので…」

 「なるほどな。それで我等にも警告に参ったというわけか。
  ご苦労であったが、それなら念話でも…」
 「……いえ、それだけではないのです、血騎士候」
  ドッペルゲンガーは嘆息する。

 「度重なる人の侵攻、ゲフェンの抑えとして長く時を経ていた前任の突然の引退。
  率直に申し上げて、今のゲフェン塔にはこの件の調査の為に割ける兵がおりません」

 駆け引きも無く、率直に過ぎる幻魔の王の声には隠せぬ疲労の跡があった。
 聞いたもののある者は戦況の予想以上の悪化に驚き、ある者はやはり、と首肯する。

 「……ふむ、まぁ他所事と看過はできぬ内容だな。
  我が行くか?ダークロードはこの様だ」

 バフォメットの言葉に起き上がって反論しかけたダークロードだったが、
 目が回ったようにへなへなとベッドに崩れ落ちた。

 微妙に、いや、かなりわざとらしい。
 「魔王たる公が任を離れるわけにも行くまいが…、
  事態が事態ゆえ、候補を挙げねばなるまいな」

 ほんの微かに、ダークロードの口元が吊りあがった。
 全てが計算どおりに運んでいる時の彼の冷たい微笑。

 それには気づかずに唸る血騎士の横を、ふわりと小柄な姿が歩み去った。
 闇の公子へ向けた目は、常の彼女の目つきよりも少しきつい。

 「…むずかしいはなしには、わらわはおじゃまであろ。
  きしだんで ないとうとあそんでくるぞ」
 「……」

 呪いで禁じられた故に声もかけ得ず、
 ただ、愛した女の背をを目で見送る闇の公子に、血騎士が苦笑いを向ける。

 「安心せよ。公より預かりしあの者に斯様な任務は割り振らぬわ。
  そも人に混じって活動するにはあの姫は外見が幼すぎるであろう」
 「……何のごどだ?」

 ベッドの上で横になったまま、下唇を突き出して強がるダークロードの姿に、
 ようやく二人の関係に合点がいったドッペルゲンガーは思わず笑みを浮かべた。

 「なるほど…たまには風邪も引いてみたくなるというものですな」
 言葉に詰まったらしいダークロードを見て、
 バフォメットは愉快そうに笑いながら、若き僚友の肩を叩く。
 相手がよろめく様を見て、さらに魔王は笑いを深めた。

 「わかった。では我が迷宮の森からは、ゴーストリング隊を偵察にまわそう」
 「…我が深淵の騎士団の内からも一人向かわせよう。
  ダークロードよ、お主の手のものは出せぬのか?」

 「……うむ…。人型を取れる者か…我は見ての通りだ。後は…」
 言いながら、ダークロードは苦笑した。
 
 連れ合いがあの目をして動いた以上、もはや、自分の思い描いたとおりに事は運ぶまい、と。

----

 「……本当にいいのか、内藤殿?」
 血騎士からの調査命令を受け出立の身支度をしていた内藤の部屋に、黒い影が立ち上る。

 扉も開けず、まるで無から湧き上がったような出現にも、
 もうすっかり見慣れてしまった内藤は動じなかった。

 「うはwwwジョンwww見送りwww乙www」
 「…お前は」
 言いかけて、そこで言葉を止める魔族の白皙の美貌を彩るのは、苦渋。

 先のドッペルゲンガーに名を受けたという、ダークロードの長子が彼だった。
 幻影を使う力は父に劣らぬ彼の名を、ジョンという。

 「すまない。俺が共に行く事ができればいいのだが」
 「俺様www西京wwwおkwwっうぇ」

 人界に疑われること無く調査に向かえるのは、古城にはそう多くは無い。
 内藤や騎士子のような受肉した深淵の騎士達か、
 あるいは、人の姿を常態にできうる幻魔力の使い手。

 ジョンにはその実力は間違いなくあるのだが、
 ダークロードがカタコンベに出れぬ今は代りに冒険者の相手をせねばならぬ。

 「大体、ゲフェンからの使いが来てすぐに親父が倒れるというのが出来すぎだ。
  妹達だけなら知らず、親父までイリューに死ねと言うのか…」
 複雑そうな表情で吐き捨てるジョンを、内藤はいつもの張り付いたような笑顔で見る。

 「俺wwロリ興味ないwwwごめwwwミスwwwティック転職したいwwwっうぇうぇ」

 僅か数日前に、自棄になったようなイリューのぼろぼろの姿を見たばかりのジョンは、
 妹を敵地に送り出すことなど考えたくも無かった。

 父親が、イリューを人界になんとかして出したいとしている事は知ってはいたが。
 純粋魔族たる彼には、イリューの悩みの本質もダークロードの思惑も理解できはしない。
 それでも、彼は彼なりに妹のことを思っていた。

 「ふ…、単独任務を主張したと聞くが…。イリューを庇ってくれたのだろう。内藤」
 「うはwww勘違いwwwうぜwwwっうぇ」
 「お前という奴は…」
 苦笑する幻魔の横に、ゆらりと人魂のようなものが浮かぶ。

 『ご心配なく、ジョン様。私も内藤様にお供いたしますから』
 「…待て、ナイトメア。人間界でお前は目立ちすぎるぞ」
 『大丈夫ですわ。人間の悪夢を渡る事は、私の得意とするところです。
  それに、乗騎のない騎士など…。
  内藤様に人間界で恥をかかすわけにはいきませんもの』

 この調査任務は、彼女の父の前任たるドッペルゲンガーからの引継ぎなのだ。
 彼女にも、それなりの思い入れがあるのだった。

 それが分かったのか否か、ダークイリュージョンはため息と共に両手を広げ、
 降参の意思表示をした。

 「…お前もついていくと知ったら、ジョーカーも荒れるだろうがな」
 『うふふ…役得ですわ。それでは、ペコの生態研究に司祭様の所に伺ってまいりますので失礼』
 機嫌よさそうにくるりと回ると、ナイトメアは姿を消した。


----


 そして、今。

 がらがらがらがら…。綺麗に舗装された道の上を台車が転がっていく。
 イリューを探しに人の街に出る時に必ずついて回る音。

 深淵の騎士子はすっかりこの音にも慣れてしまった。
 「今日こそは…」
 脳裏には、今日も一人で騎士団を護る深淵の顔が浮かぶ。
 手ぶらで帰る騎士子を迎える同僚の鎧には、日を追うに従って細かな傷が増えている。

 せめて、内藤と二人が残っていればよかったのだろうが、
 イリューの失踪の少し前から、内藤もまたグラストヘイムから姿を消していた。

 明らかに騎士団の守備は手薄になっている。
 それでも、今日も騎士子は夕日に赤く染め上げられた人の街を歩く。

 「…ミミック、今宵こそは、イリュージョン卿の手がかりなりと掴むまでは帰らぬぞ」
 「ウハwwwオkwww」
 誰に習ったのか考えるまでもないような返事を返すミミックの蓋を素手で軽く叩くと、

 騎士子は人間の街を歩き出す。
 今の彼女を包む装束は、当然ながらいつもの黒い大鎧ではない。

 今の衣装はミミックをつれたままで人間たちの街で行動するには最適だ…、と
 貸主の赤の司祭が太鼓判を押したものなのだが、騎士子は不快だった。
 どこがと列挙すればきりが無い。

 「…胸がきつい、スカートは広がりすぎですーすーする…。ミミックを載せた台車は重い。
 おまけに妙なやからに声はかけられる…」
 『速度増加!』

 また、どこの誰とも知れぬ人間の聖職者から支援魔法が飛んでくる。
 そっちを見ると、銀の髪の高位聖職者が背を向けて去っていくところだった。

 先だっては『PC3マーチャンはぁはぁ』等と呟く不穏な奴から付回されたりもしたので、
 おそらく善意だろうものにも多少身構えてしまう自分が情けない。

 彼女は、この数日で何度目か数える気にもならぬ疑問を口にした。
 「……イリュージョン卿を探すのに…、本当にこれでよいのか?」
 「ダイジョウブ! 深淵、モエ!」
 おそらく悪意はないだろうミミックの返事までもが腹立だしい。

 いっそのこと、スカートの中に隠し持った大剣で
 目に付く全てを粉砕してしまえば楽になるのだろうか。

 剣呑な考えを浮かべ始めた彼女の視界に、ちょうど良いモノが移った。
 「ふふふ…うふふふふ……」
 良いというのは、鬱憤晴らしにである。

 「ワワ…ハヤイ、ハヤイ!」
 小声で歓声をあげるミミックを物凄い勢いで引っ張りながら、騎士子は街路を疾走する。

 慌てて飛びのいた人間からの罵声も気にせずに。
 「内藤! きーさーまー! 何故にこんなところにいるかっ!」

 質問と同時に、台車つきミミックを腰に繋いでいた棒を振り回すと、
 派手な音を立てて甲冑姿が空に舞った。

 「うはwww騎士子たんwwwCR強杉www修正www汁」
 「…血騎士候の命令書だと? …内藤に、機密命令!?」
 仰向けにひっくり返ったまま、片手で差し出してきた書類を見て、騎士子の目が点になる。

 「人間のフリをしているのもその一環か…」
 そう言って彼女が指で内藤の肩をつつく。

 黄金の地に、黒字で“不破”と刻まれたそれは、
 人間の言う“ぎるど”というものの紋章だろう。

 よくはわからぬが、
 それをつけていない騎士は狩場で迫害を受けるのだと、騎士子は聞いた事があった。

 「…内藤、その紋章は…」
 「任務内容はwww秘密www喋る無理wwwサポシ」

 「…機密とあれば仕方があるまいな。
  それにしても、機密任務といえば大任だ。何故よりにもよって内藤に…」

 『よりにもよって…とはどういう意味ですか? 騎士さま』
 耳元から吐き掛けられた生暖かい鼻息に、騎士子の背筋がびくりと震えた。

 振り返る先にあったのは、深淵の内藤の愛馬…というか、相棒のナイトメアの面長な馬面。

 彼女は悪夢を司る高位魔族であるにも関わらず、
 なぜか深淵の騎士の乗騎などをやっている変り種である。

 「…ふ、不意に現れるなっ! 人間に見られたらどうするかっ」
 『大丈夫です。
  今はここには来れないように…、覗きに来そうな不埒物には白昼夢を見せてますから。
  それに人間に云々をおっしゃるなら騎士さまの大声こそ不注意ではありませんか?』

 乗騎如きに正論でやりこめられるのも腹が立つが、
 それが内藤の乗騎だというのが更に腹立だしく、
 騎士子の眉根に深く皺が刻まれる。

 それでも、彼女はなんとか自制した。
 商人の技にブラッディスピアは存在しないのだ。

 「…すまん。よりにもよってとは言い過ぎた。
  だが、私や深淵ではなく、内藤に…という理由は何だ?」
 「俺wwwここではwww不通のwww紳士ww目立たないwwwおk」

 騎士子の目が疑わしげに内藤を見る。だが、ある意味ではそれも真実なのかもしれない。
 人間の中に内藤の同類が山のように居る事を、騎士子は己の目で知っているのだから。

 それに、内藤がもっとも人間世界に詳しい古城の住人であるのもまた、事実であろう。
 言われてみれば違和感のない些細なことまでが、騎士子をこんなにも苛立たせる。

 「それよりwww騎士子たんwww俺をwww追いかけてwww北?俺様ww持て杉wwwっうぇ」
 その一言で、何故自分がここに居るのかを思い出した騎士子の脳裏を、様々なものが去来した。

 内藤の不在中に、命令外で任務を離れてうろつく自分。
 仲間たちが不満も言わずに任務を肩代わりしてくれているのに、
 何も成果を上げ得ない自分の不甲斐なさ。

 彼女の苛立ちは、全てそれが原因だ。
 知らず、ため息をつくと、彼女の八つ当たりの犠牲者が、
 見上げたまま彼女の返事を待っているのと目があった。

 「……実はイリュージョン卿が失踪されたのだ」
 「うはwww」

 「諸般の事情から、人間界に来られているのではないかと思ってな、探しに参った。
  貴公も任務中とあれば手助けは頼めぬが、気に留めておいて欲しい」
 「おkwww手伝うwwwっうぇ」

 もう一つため息をつく騎士子を労わるように、内藤が満面の笑みを浮かべながら手を大きく広げた。

 …寸秒の間。

 「……まさか、私に貴様の胸で泣けとでもいうのか、内藤…。笑えぬ冗談だぞ」
 言葉とは裏腹に泣きだす前のような微妙な表情で見つめる騎士子には取り合わず、
 内藤はそのまま天を仰ぐように目を閉じると、どこか遠くに意識を凝らす。

 「……うは…おk…いつでもwWw!!  夢でもwWw!! っうぇうぇうぇうぇ…」
 「……おい…」

 「………電波SONGキタ─wwヘ√レww〜(゜∀゜)─wwヘ√レww〜─www」
 「…内藤!?」

 内藤が突然奇妙な行動を始めるのはよくあることなのだが、
 いつまで経っても慣れない騎士子がそれに驚くのもいつものことだった。
 内藤は、広げていた両手をぐっとひきつけ、体ごとくるりとターンして、

   wWw
  (σ゜∀゜)σ

 「イリューwww元気wwwあっちの方にwwwいる。
  俺がwww言うからwww間違いないwwwおkおk」

 「…そうか、お前はイリュージョン卿と魂を分けていたのだったな。…それでわかるのか?」
 「案内wwwおkwwっうぇ 俺様www仕え杉www習性wwwされないwwwっうぇうぇ」
 内藤が、マントを翻すと得意そうに胸を張る。

 「イリュー、ゲンキカ!」
 嬉しそうに小さくはしゃぐミミックと同様に、騎士子の表情も明るくなった。

 彼女の知る内藤は、嘘も冗談も言う男だが、時と場合を弁えぬようなことはない。
 目を一度つぶり、大きく息を吐く。

 何かが落ちたように活力に満ちた表情で、
 騎士子はミミックの乗った台車の引き棒を掴みなおした。

 「…感謝する。私は行くぞ」
 「うはwwwおkwwwイリューたんにwww夜露死苦wwっうぇ」

 騎士子は大きく頷くと、商人姿には似あわぬ颯爽とした足取りで歩き出した。
 三歩目からは跳ねる様に走り出す。

 夕闇にその座を譲る前の太陽に赤く照らされたその後姿を、
 内藤と乗騎は見えなくなるまで見送っていた。

 『……騎士子様にご助力をお願いしなくてもよかったのですか?』
 おずおずと、といった風情で夢魔が主に問う。
 諾と言って欲しい本音と、嫉妬を見透かされたくないプライドとが見え隠れする口調で。

 しかし、彼女の主人はそのいずれにもいつものように無頓着に笑う。
 「おkwwwこれはwww俺ww達の仕事wwwっうぇ」
 それでも、達、の所に入った微かな語調の強さに、ナイトメアは嬉しげにいなないた。

 『…そうですね。早く終わらせて、久しぶりにゲフェンまで遠駆けでもいたしましょうか』
 そういい残すと、ナイトメアはすっと溶ける様に消えた。

 彼女が消えるのと同時に、白日夢から覚めた人間達が目を瞬かせる。
 内藤は、その合間を縫って人ゴミへと消えた。






[abys043.txt] 懲りずに投下 2004/09/15(Wed)12:43 N22.txt


SIDE:B 少女達

 夕日が闇に世界を明け渡す刹那を、イリューは窓から眺めていた。

 宿に戻ってからブレイドはいつものように街に出かけたが、
 彼女は疲れを理由に宿に残ったのだ。

 それは理由の半分ではあるが、もう半分は、彼女の魔族としての感覚が、
 近づいてくる同類の存在を感じ取ったからだった。

 「…思いの外、時間がかかったの」
 短い休暇への思いをそれだけの言葉に託してから、
 少女はひらりと窓から宙へ身を投じた。

 聖衣の裾を押さえながら、軽い音を立てて裏庭に降り立つと、イリューは待つ。
 彼女の朋友を。

 駆け足で歩いてきた商人姿の娘の前で、狭い路地が急に開けた。と、いうよりも
 路地はそこで行き止まりのようだった。
 そして、ここが彼女の長かった探索の終点だ。

 人間の商人に身をやつしていた深淵の騎士子はそう、何の疑念も無く信じていた。
 宵闇に目が慣れ、イリューの表情を見るまでは。

 「……イリュージョン卿…?」
 「騎士子殿。お主が連れ戻しにきたか…」

 静かに言う闇の王の娘は、井戸縁に浅く腰掛け横向いたたまま、
 まだ残る陽光に頬を赤く染めていた。

 その手足を縛る枷は無く、見た限りでは怪我もなさそうで、
 彼女が人間に囚われている事を心配していた騎士子は安堵の息をつく。

 「一週間も、心配した。…本当に」
 言葉がもどかしく、騎士子は大きく頭を振った。
 何故、イリューはこちらに目を向けないのか。

 安堵の後にじわりと沸く僅かな不安を振り払うように、騎士子は右手を差し伸べる。
 「戻ろう、イリュージョン卿。…我らの城へ」

 イリューは、その声を聞いてゆっくりと騎士子に顔を向けた。
 その姿が、騎士子には急に遠く見える。

 その距離を埋めるように、手を伸べたまま一歩を踏み出した。二歩、三歩。
 そして最後の一歩…

 「……すまぬ」
 「……イリュージョン卿?」

 その一歩を踏み出す前に、立ち上がった闇の王の娘は騎士子の腕の中にその身を投げていた。


 首都プロンテラとはいえ、大通りを外れれば夜になると明かりも少ない。
 暗くなった宿の裏庭で細い影が二つ、重なり合うようにして添っていた。

 「以前に申したな…騎士子殿」
 「……な、何がですか」

 腕の中のイリューは小さく、別に大柄というわけでもない騎士子よりも頭一つ低い。
 イリューは騎士子の胸にそっと頬を当てた。

 「妾は、こうしていると落ち着く…、と」
 どう答えていいのかわからず、騎士子は所在無く浮いていた右手を、
 そっとイリューの背に回した。
 微かに震える少女を腕の中に感じる。

 「……妾は…、この人の街でも落ち着ける場所を見出したかもしれぬ」
 「……っ」
 紅毛の少女の体がこわばる。それに気づいたか否か、
 黒髪の少女はそのままの姿勢で、かすれるような小声で話し続けた。

 「…妾は、それが真の物かを…もうしばし、時をかけて見たいのじゃ。
  騎士子殿、妾の我がままを許…」
 「イリュー! あなたは!」

 ぐっと、おのれの胸からイリューを放すように身を引くと、
 騎士子は両手で聖職衣の少女の細い肩を掴んだ。

 その手がわずかに震えるのは、騎士子の胸につかえた何かのせいだ。
 それは、ずっと以前に芽吹き、内藤が不在になった間に根を張り、
 イリューを探すこの一週間で実った不安という果実。

 「……あなたは! 城を…、捨てるのか?」
 声を振り絞るような彼女の姿に、イリューは驚いた。

 「妾はただ…、この心中をよぎる何かを見極めるまでは城に戻りとうないだけじゃ。いずれは戻る」
 「……」

 騎士子は沈黙で答える。見上げたイリューの額に水滴があたった。
 それが、この気丈な少女の涙だと
 イリューが気づくのに寸秒の間。

 「…イリュー…あなたまで。Abyss姉さまのように…っ。城を…私を、捨てるのかっ!?」

 かつて受肉したAbyssという深淵の騎士が、
 人と結ばれるために古城を出たことは、イリューも知っていた。

 騎士子とその騎士がまるで姉妹のように親しかったことも。伝説にもなっている恋が実り、
 人の世界へと出たAbyssの事は、古城の皆が祝福したものだ。……もちろん、騎士子も。

 しかし、騎士子の胸の中のそんな想いは、今の今までイリューの察するところではなかった。
 イリューにとって、彼女はいつでも強く、迷わず、まっすぐだったから。

 それが、今宵はこんなにか細い。
 「戻ると…。戻るという言葉をっ…。私は…ずっと…」
 騎士子の胸を焼く不安は、Abyssが去ってからずっと燻っていた物だった。

 内藤が人の街を訪れた時も、そして今も。
 騎士子は時に眠れぬ夜を過ごすのだ。……いつか、と。

 「いつかイリューまでいなくなったら…、いつか、城に…私のような者がいなくなったら…。私はっ」
 「アリスがいる。司祭も、レイドリック共も。たとえお主以外の深淵の騎士すべてが去ったとしても…。
 あの者達はいつまでも城を去りはせぬ」

 「………それでも、私は…怖い。寂しさが怖いのだ」
 「……それに、妾も去りはせぬ。妾は闇の王の娘であるからの。…お主の涙に誓おう。必ず戻るとの」

 子供のように、というよりは
 子供そのものの様子で泣きじゃくる騎士子の首の後ろに、イリューは手を回す。

 騎士装束の時にはあんなにも力強い少女は、イリューの細い手に逆らわずに頭を垂れた。
 その頭を、黒髪の少女は優しく胸に抱く。

 「……騎士子殿には偽りなき妾の心中を話しておきたかったのじゃ。それは…」
 イリューは目を閉じた。

 「おぬしが妾の真の友だと、そう思っておるから…。たとえ、何があろうとも」
 「私も、そうだ。イリューでなくば…、このような事は言わない」

 立ったまま腰だけを折るようにで上体を傾けていた騎士子が、力を抜いてイリューにもたれかかる。
 そのまま、すっと井戸端に腰を落としなおしたイリューの膝の上に頭を乗せた。

 「……みっともないところを、見せたな」
 少し落ち着いた声に戻った親友の紅毛を右手で梳きながら、イリューは微笑む。

 「気にするでない。妾も…その、斯様までに気にかけてくれた事は感謝する」
 イリューは撫でられる事は嫌ではなかった。
 そして、撫でる事も、どうやら嫌いではないらしい。

 騎士子は剣を握り続けていた自分の腕よりも幾分繊細なイリューの手に頭をゆだねて目を閉じる。
 発作のように迸った激情は、穏やかな黒い夜の闇に溶けていった。

 「……そういえば、私も同意だ」
 「何がじゃ?」

 「こうされると、落ち着く」
 「……ふ」
 闇の姫は目を閉じると、微かに笑った。内心の嬉しさを隠すように。

 「…いずれ、妾が何者であるかかの人間に分かってしまう時がくる。
  そうなるまで、せめてしばしの時間を妾にくれぬか? 騎士子殿」

 「…そもそも、イリュージョン卿は働きすぎだったのだ。たまに休むのもいいかもしれぬ、な…」
 笑う少女の足元に、おずおずと小さな箱がすりよる。

 魔法によって生きる仮初の生を得た忠実な友、ミミックだと言う事は、
 イリューには目を向けずともわかることだった。

 「…イリュー、モエ? 深淵、モエ?」
 「…ミミック。おぬしも妾を探しに来てくれたのか…」

 がばっと、騎士子が起き上がる。目を丸くするイリューの顔を見つめながら、
 ミミックをそっと抱えあげた。

 「ワワ…」
 「イリュージョン卿。ならば、彼を連れて行くがいい。

 城の皆、卿を待つ者の名代として。ミミックならば
 部屋に入れても人に怪しまれることもあるまい。……黙っていれば」

 「…ミミックを、か? しかし」
 「イリュー、オレ、ツイテイク! ツレテケ、ツレテケ」

 騎士子の言葉の意味を理解したミミックが、蓋をかぱかぱと開閉して騒ぎ立てる。
 その蓋を、ごつんと一撃してから、騎士子はもう一度イリューの顔に目を据えた。

 「…ミミック、黙ル」
 「私が騎士団を空け続けることはできないが、
 ミミックならば卿の忠実な騎士として貴女を護るだろう」

 「……」
 「…私も安心が欲しい。貴女の無事と、そして、いつか必ず戻ってくるという、安心が」

 二人の少女の視線が交錯する。今度は先に目を落としたのは、イリューだった。

 「……わかった。ミミック。人間に口を開けられても、叩かれても声を出すでないぞ。
  それと、動くのも許さぬ。よいか?」
 「うはwwwおkwwwっうぇ」

 瞬時の沈黙の後、少女達の鈴のような笑い声が宵闇に鳴った。

 「……ならば、私は行こう。イリュージョン卿…」
 「なんじゃ?」

 返したイリューに答える騎士子の声は、既に気弱な少女のものではない。
 冬寒の空に渡る鳥の如く凛と背を伸ばした娘の声は、もはや迷いを見せてはいなかった。

 「つつがなく、御無事で」
 「おぬしもな」